打たぬ鐘は鳴らぬ
うたぬかねはならぬ
すべてをその力に。
どこまでも膨らんでゆく怨みを糧に。
湧き上がるその力を願いを。
木の葉に復讐と滅亡を。
「そりゃ強いだろうよ…」
それだけの想いを身に溜め込んでりゃあよ。
あんなモノに身を任せたら強くなれるかも知れない。
でもそれは果てしのない欲望に身を任せるのも同じではないのか。
どこまでも吹き上がる暗い想いに喰われてしまう。
「…わかりたくはねぇな」
つきつけられる刃。
同じ目に遭ってから言えと赤い瞳が叫ぶかもしれない。
でも違う感情を湛えた蒼く、赤い瞳はそれを否定するに違いない。
同じく暗く重く辛い過去を背負った者。
「シカマル?」
「ああ、何でもねぇよ」
「ハイ、新作」差し出されたガルBの袋に手を突っ込む。
「サンキュー」
アイツが捨てたなんでもない日常。
かつてあったもの。
俺にとっては捨てるなんて考えも及ばない大切なもの。
「考えたって仕方ないって言ったよね」
「ん?ああ、そりゃわかってっけどよ…」
ガリガリと頭をかく。
ナルトが言わないのなら、それは時が来るまで言わないだろう。
頑固な奴なのはわかっている。
その心に秘めた強さも。
…そして弱さも少し。
「あいつは多分、何かを見たんだ」
「……」
「…いや、何かを知ったのか?くっそ、わっからねぇな」
「シーカーマールー」
「ああ、わかってっけどよ」
思わず空を見上げて溜息をつく。「……」
もぐもぐと無言でチョウジが袋を差し出して促す。
「わかっちゃあいるが、どうせナルトの事だ。ぜってー後の事考えてないに違いねぇ。
アイツのフォロー出来た方がアイツらの為にも俺達の為にも絶対いいに決まってん
のに、結局アイツが言ってくれないとさっぱりわかんねってのかなんかムカつくぜ。
まったく、めんどくせぇ…」
「あいつらなんだね、やっぱり」
「ん?まあどうせナルトの事だ。どうせ諦めてはいないんだろうと思ってな。珍しくただ
感情に流されてるだけじゃないみてーだったしよ」
世の中そう上手くいくかはわかんねーけどな。流石に話がデカくなり過ぎた。
今の自分であれだけの事をやらかしたサスケをどこまで救ってやれるか。
「シカマルって案外お人好しだよね」
「はあ?んなわけねーだろ」
「じゃあ貧乏性?」
「ほっといてくれ…」
がくりとうな垂れた俺に静かにかかる声。
「考え出すと止らないってのも結構不便なモンなんだね」
時折出る幼馴染の短いが鋭い言葉に驚かされる。
「チョウジ…」
「僕はサスケに死んで欲しい訳でもないけど、木の葉の上層部がこのままサスケを
喜んで受け入れるとも思えないのくらいは何となくわかるよ。だからシカマルは何とか
したいんでしょ。そんな事をしたらサスケだけじゃなくて、今回のことでようやく英雄って
言われて皆に認められはじめてきたナルトの立場だって危うくなる」
でしょ、とにこやかにこちらを向いて言われると本当に頭がいいのはチョウジなんじゃ
ないだろうかと感心する。
「言っとくけど、僕は長い付き合いだからシカマルが考えそうな事がわかるだけであって
頭が回る訳じゃないよ」
「俺の考えダダ漏れかよ…」
ふふふ、と微笑ましく笑われても困る。
本日何回目かの溜息とともにこっそり本音を吐き出す。
「俺としてはさ。あの時サスケ奪還に成功してたら、奴にとって少しは違う結果が出て
たかもしれないって今でもたまに思わない事もない。そんなのあいつにとっては今更
迷惑な話でしかないんだろうけどな。だけど、アカデミーで過ごした日々も嘘じゃねえ。
だからさ」
「うん」
「あいつは冷静になれば自分がやっちまった事がどんなことかはきちんと考えれる奴だ。
だから、それでもここに帰りたいってあいつ自身がちゃんとそう思ったんなら俺はサスケを
受け入れてやりてーんだ」
「…それはとても厳しい道程だね」
「ああ、そうだな」
こんな青二才な中忍に何が出来るかまださっぱりわからないけど。
「でも、キバなんかはぜーんぜん納得してなかったから大丈夫かなぁ」
気分をかえるようにチョウジが明るく言う。
「んー、まあシノもいるし大丈夫だろ。まあまだこの話は皆にする気ないしな」
サスケを殺す、といった口でこんな事を今更。
「そういやあの時珍しくシノも反論してたな。ネジは…まあ落ち着けば心配ないだろ、多分。
昔と比べて丸くなってきたしなーって・・・そういやイノは?」
ハッと我に返る。最初に話した時は泣きじゃくってあの後大変だったらしいけど、今回は
静かに話を聴いていたハズだ。
「うん、機会があったらサクラにナルトとサスケが会った時の話を聞いておくって」
ぶは。何だ、やっぱり読まれてるのは俺の方か。
「高くつきそうだな…」
「ふふふ、いい幼馴染を持ったね」
「…本当にな」
「まあイノは自分の為でもあるんだろうから今回はいいんじゃない?」
「チョウジお前…まあいっか、めんどくせぇ」
投げやりにいつものセリフをいうと物凄く爽やかに笑われた。
それはガルBを完食した笑顔だと思いたい。
「…チョウジ、いつもありがとな」
「うん?よくわからないけど、どういたしまして」
俺は
捨てられない。
だから最終的な覚悟だけは決めておく
そして足掻いてやる。
さて、我らは我らの道をいきますか。