入日よければ明日天気 

いりひよければあすてんき


「なあ聞いてるってば〜?」
「あー聞いてる聞いてる」
「ものすーーーーっごく嘘くさいんですけど…」
「じゃあ何でうち来たんだよ」
めんどくせぇなあって呟いてるけど律儀に読んでいた本を閉じたシカマル。
文句言いつつ結構面倒見がいい奴だって知ってる。
「ソレ、いいのか?」
一応閉じた本を指さすとシカマルは器用に片方の眉だけ上げて見せた。
「ま、急ぐモンじゃないからな。夜にでも読むさ」
お前にしちゃ気が付くじゃないかって発言は失礼だってばよ。
「で?」
「ん〜そうやって改められると話しにくいってゆーかさー」
「何なんだよ、お前は…キバか」
「キバと一緒にするなってばよ!」
ムキーと思わず強調。アイツとキャラ被ってたまるもんか!
「キバってよく来たりすんの?」
「そーいや家にはあんま来ないな」
母ちゃんがウルセー同士その辺は気を使うのかもなってどうなんだよ、ソレ。

こうやってダラダラ話してれば何の話をしようとしてたか聞いてこない。
その辺りサイとかサクラちゃんと違ってワザと誤魔化しにのってくれる。
当然サイは問題外だけど、サクラちゃんだってある程度空気は読んでくれる。
だけど本当はもうちょっと気を張り過ぎるのをどうにかしたいと思ってる。
多分お互いに。俺はもうちょっとだけでいいんだけどさ。
「シカマル達はさー、喧嘩したりしねぇの?」
「んあ?」
あ、俺ってばなんか言葉足りてない。
「俺達?キバじゃなくてチョウジ達のことか?」
それでも察したのか一応確認っぽく聞いてくる。
「そうだってばよ。10班って幼馴染でもあるんだろ?」
「お前…下忍時代見てて喧嘩してないように見えたか?」
「え?」
あーそういや見慣れた長い金髪の少女が怒鳴ってるのをよく見た記憶があるわ。
「ハハハハハ」
「まあ、ありゃどっちかつーと喧嘩じゃなくて一方的なモンだけどな」
うわー、なんか脳裏に金色と桃色がやりあってる姿しか浮かんでこねえ。
つか俺がサクラちゃんに怒られてる図とよく似てるかもって思っちまった。
「ま、お互い様だってばよ…」
「あー、俺もお前が墓穴掘って怒られてる図しか浮かんでこねぇわ」
俺そんなにわかりやすかったかよって思ったけど、だいたいシカマルだって同じような
モンだったっのに言われたくないってばよ。
「そういやうちも最近ではあんま喧嘩しねえけど、お前んトコだって今は喧嘩しねえん
じゃねえの?」
あ、変化球キター。
人の部屋なのに勝手にゴロンと横になる。
「うんまあねー」
「うわ、棒読みかよ」
お前が大人しいのって気持ち悪いなって本当シカマルって口悪いってばよ。
「…サクラ、最近顔色悪いな」
「ほえ?何でシカマル知ってるんだってば」
「たまに火影室に書類とか持っていく時みかけるんだよ」
「ふーん」
「サクラも」
一端区切ってチラとこちらに視線を投げてきた。
「お前が最近カラ元気っぽいって気にしてた」
「どえええええぇ?」
ガバっと起き上がるとシカマルの口元が柔らかく笑っていた。
「ま、今度サクラに会ったら俺からもナルトが心配してたtって言っとくよ」
「げ、そ、そそそ、それはダメだってばよ」
思わずキョドってしまった。そんなの恥ずかし過ぎる!
「まあそれはおいといてだ」
「いやいやいや、おいとかれないってばよ」
「んーまあ茶でも入れてやるから落ち着け、話はそれからだ。まあお前が話さないつもり
ならそれはそれでいいけどよ」
さらっと言って部屋を出て行った背中を呆然と見送る。
「あの人ダレデスカ…」
のんべんだらりのいつも授業中に寝てた奴は何処いったんだ。

「ほらよ」
うちには牛乳ねぇからって出されたのは麦茶。
「おう、ありがとうってばよ」
受け取ったものの、どうしようかと思ってたらシカマルはさっき閉じた本を再び開いた。
あー、待ちの状態って事でしょうか…
冷えた麦茶をひとくち飲む。
「ナルト、うち今誰もいねぇんだ」
「ふーん」
「かき氷つくって食べね?」
「お、賛成!」

結局、2人して大騒ぎしてかき氷つくってたらチョウジが現れて更に大変な事になった。
シカマルんちの氷だけじゃ足りないって氷を買いに行って(当然犯人はチョウジだ)
その帰りにはこんな時に限って嗅ぎ付けてきたキバまで合流したモンだから、そりゃ正に
大騒ぎで縁側で風流にカキ氷を食べようぜなんていった事なんて誰も覚えてないくらい馬鹿
ばっかりで、氷をわけてもらった赤丸が冷たすぎて涙目になったのを俺が笑ってると今度は
『氷はいちご!シカマルのチョイスなんてじじくさい』(ちなみに抹茶。黒蜜は常備されていた)
とか言ってからんでたキバが急にムキになって『ナルトなんてかき氷の食べすぎで腹壊せ』
とか言出だしてくるから俺もついのせられて小競り合いになったり、(ソレ言ったらチョウジ
はどうなるんだよ!)でも『確かにシカマルのチョイスはオッサンすぎる』と指さしたら、
『人を指差すなよ』って怒られたり、台所の惨状を見たシカマルが頭を抱えて『せめて床に
零した分は拭け』って雑巾投げてきたりとかなんかもう色々とカオスだった。

「じゃあまたな!」
夕暮れの中、至極満足気に帰ってゆくキバと赤丸をまず見送る。隣に立っていたチョウジが
こっちをチラっと見たが俺がさりげなく見ないフリをすると何も言わなかった。
「シカマル今日おばさんは?」
「ああ、出かけてる。遅くなるけど帰って来るとは言ってた」
「そう。片付け手伝った方がいい?」
「あー、ま何とかなるだろ」
ややげんなりしつつ、ガリガリといつもの調子で頭をかくのをチョウジの目がちょっと揺れて
見ていた。
「わかった、2人ともまたね」
その割に爽やかにそう宣言されれば2人で見送るしかなく、俺は去っていくのを半ば呆然と
眺めていた。
「腹いっぱいに食べた後のチョウジって妙に爽やかだよな…」
シカマルの呟きに頷くしかなかった。つか、そんなことかい!
「ナルトも」
ふいに名を呼ばれる。
「思い出せたみたいだしな」
自分の位置。
そういわれて驚いて顔を見るけど、夕焼けの逆光で表情はよくわからなかった。
「俺…いつも通りに戻っれてたってば?」
いろんな事があって、いろんな人に逢って、人にはいろんな事情や立場があって、それでも
尚自分の貫き通したい事があって、でも考えなきゃいけないこともあって、いろんなことだ
らけのうちにぐるぐると迷路に迷い込んで、知らないうちに何処かズレていく自分をどうしよ
うもなくて。
人の想いや常識をつきつけられても、どうしても曲げられない俺は酷い奴なのかもしれない。
そんな事まで思ってて。
それなのに。
「自覚ねーのかよ。ま、それでこそお前か」
お前はいつも一人で勝手に落ち込んで勝手に立ち直ってくからさ、たまには俺達を頼れよっ
てずっと言いたかったんだって軽く肩を叩かれた。
そこからみんなの優しさが夕暮れから滲み出して、暖かく俺の体に染込んでくるようだった。
シカマルはそのまま玄関に戻ってゆく。
茜色の世界にカラコロと響く下駄の音に何故だか無性に泣きそうになった。
「…ありがとうってばよ」
思ったより小さな声になったけどそれでもちゃんと聞こえらしく、シカマルはそのまま振り向
かず手だけ振って答えてくれた。
振り向かないでいてくれることが有難かった。
「またな」
それはまるでアカデミー時代のように当たり前に言われた別れの言葉。再会の約束。
家に帰っても肩はずっと暖かくて、心までじんわりしてきた俺は自分でその肩をそっと抱いて
夕日が沈んでも暫く窓辺に佇んでいた。