軌を一にす 

きをいつにす


いつだってずっと側にいれると思ってた。
変わらない距離で、並んでいられる。
笑って、怒って、拗ねて、泣いて。
いつだって。
「ちょっと、シカマル聞いてるの!」
「おー」
やる気のない返事が帰ってくる。
目の前のおかずを何時もの倍以上かかってつついているので,、こちらの話にあわせて
くれているとわかってはいる。…が、あまりの覇気のなさに思わず声が大きくなる。
「今日はチョウジじゃなくていいのかよ」
「はあ?」
「いつも彼氏の愚痴の聞き役はチョウジだろ」
「…別れたわよ」
「早いな」
サラリと言った後、そのまま普通にもぐもぐとお気に入りの魚の煮付けを食べている。
「ちょっとアンタ聞いてるの!」
「今回は短かったな」
「う、仕方ないでしょ」
「お前理想高いからなー」
「だって!」
「まあいいんじゃねぇの」
相変わらずいつもよりゆっくりと食べている。
「…何でよ」
「合わねぇのに無理して付き合うこたあねぇし、理解できねぇヤツなんざほっとけ」
淡々と、それだけ。
普通彼氏と別れたと言ったら理由聞いて慰めてくれたりするんじゃないの。
なのになによそれ。
「ーありがとう」
「おー」
彼氏の惚気と愚痴の聞き役はチョウジ。
もちろん女友達にだって話すけど、チョウジは情け容赦なく話してもドン引きしないし、
怒らない。穏やかに、にこにこして聞いてくれる。
シカマルはどちらかというと別れた時が多い。
優しく慰めてくれる人は沢山いるけれど、こんな風にいつもと変わらない態度で接して
くれるからなんとなく。毎回じゃないけれど。
どうしても心の中に残る人の残像を追ってしまうから長続きしない。
別にそんなに沢山の人と付き合ったりはしてないし、申し込まれてちょっとカッコ良さ気な
人だったら一応付き合うけど、結局ご飯を食べに行ったり休日出かけたりするだけ。
それでもすぐに何か違うと思ってしまう。
自分がこの人いいなと思っても、思うだけで実際告白とかまでいかない。
…いつの間にかそうなってしまっている。
きっとそれはサクラも同じ。
「今日は飲まなくていいのか」
「うん」
相変わらずやる気のない声。
いつだって。
いや、時折そうじゃないことを知っている。
いつも見ないフリをしようとしてたけど。
「アンタは置いていかないでよ」
ふいに、シカマルの箸がとまる。
じっと正面からこちらをみつめてくるのは真意を探している目だ。
そして、コレは他の人とは違う。
家族以外では私と、チョウジにだけには遠慮なしに探究心を隠さず心理を探して見つめて
くる。
もともと人の心の機敏に疎いシカマルはこうして正面から遠慮なく観察しないと相手の事が
よく読み取れないらしい。まあ見たからといって必ず読み取れるとも限らないけど。
まあ正直、眼つきのあまり良くないシカマルが他の人にやるとかなり失礼な事になるだろう。
(かといってわざわざ断り入れて、なんて面倒な事を当然シカマルがやるはずなんてない)
・・・他の人にはやらない、だから特別。
「お前は強いから大丈夫だ」
どちらとも取れる言葉に思わず不審な視線を送る。
「つか、俺の方がおいてかれそうだけどな」
多分本心から言ってる言葉にこっそり溜息をつく。
アスマ先生にあんな事言われておきながらどうなのかしら。
チクリ、と小さく胸が痛む。こちらもいまだに癒え切ってない傷と新たに生まれそうな不安。
…そういやコイツ昔から自己評価低かったっけ。
「ほんっっとにアンタは仕方ないわねー」
「へいへい、悪かったな」
熱いお茶を飲んでふーっと息を吐くシカマルを眺める。
もう既に中忍ベストが板についてきている。
「いの」
ふいに低いトーン。
「なに」
「…チョウジの事なんだが」
「………」
「もしもの時はお前も頼む」
「わかってるわよ」
優しいチョウジ。優しすぎるその心は切羽詰まった時にどう化けるか。
私でさえ時折痛むあの傷をきっと未だ癒しきれぬまま一人で抱え込んでる。
でもそれは私達の生きる世界では乗り越えないといけないもの。
いや乗り越えて当たり前、そんな世界なんだと今頃になって思い知らされている。
覚悟していたつもりだったのに。
「ちょっと、今日は私の話を聞く日でしょうが。何でこんな話になってんのよ」
微妙に心当たりはあるけどそこは知らん顔だ。
「そりゃそうなんだが、ちょうどいい機会だったからよ」
案の定ソコは流して情けない顔をしたシカマルが頭をかく。
「もう、この私の前でそんな情けない顔するんじゃないわよ。ここはアンタの奢りね!」
元より払う気なんてないしシカマルも出す気だったろうけれど。
「へいへい」
諦めきった返答に満足して新たにデザートを追加する。
「でた、別腹…」
「うるさいわよ」
ビシッと言うと脳裏にヨシノさんの顔でも思い浮かんだのか、がくりとうな垂れてしまった。
「あー、…気が済むまでお付き合いさせていただきますよ」
「それと今度の休み、買い物付き合いなさい」
「マジか…」
ぐうの音も出なくなったシカマルに満足し、上機嫌で期間限定デザートを食べ始める。
いつだって、こうじゃなくちゃね!