浮世渡らば豆腐で渡れ 

うきよわたらばとうふでわたれ


「ネジ!」
久しぶり、と手をあげると相手も振り返る。
「どうした、こんな所で珍しいな」
「いや、あんたが珍しいんじゃねえの?」
待機所からやや離れた定食屋。
一人なせいか律儀にカウンターに座っている出世頭に隣空いてるか?と目線で聞くと
頷かれたのでそのまま座る。
「お、今日の昼定食うまそうだな」
ひょいっと行儀悪く覗き込む。

「よく来るのか?」
「んーまあな。キバとかはあっちの食堂派なんだけどな」
「ああ、待機所近くのあそこか」
「そ、早い・安い・多い系」
そこは小声で言ってみる。まあ質より量ってヤツだ。
「ハイ、鯖味噌定食だよ」
「お、ども」
軽く頭を下げてお盆を受け取る。
「渋いな」
「ネジに言われるとなーんか微妙だな」
笑いながら魚をつつく。

「あら、珍しい組み合わせね」
明るい声がして振り向くとテンテンが笑って立っていた。
思わずネジと顔を見合わせる。
「そうか?」
「んー、どうだろうな?」
まあ確かに日頃それ程接点はないといえばない。
するとフフフとテンテンが笑みを深くする。
「いいなあ、男の子同士って」
俺とネジの男2人の顔に疑問符。
「だって、何だか仲良さそうなんだもん。羨ましいなぁ」
よくわからない。思わずネジを見やるが、ネジも不思議そうだ。
「いつも一緒じゃなくったってちゃんと友達なんだなって思って。
ホラ、うちの班ってちょっと特殊だったじゃない?だから微妙にみんなと馴染めてない
気がしてたのよ、昔」
確かに引率者がアレで心酔者がアレだからな…と思わずちょっと遠い目をしたくなって
しまった。
ここで同情的な目をしてネジを見るのは失礼にあたるんだろうな。
「女の子同士はいのちゃんとかが声かけてくれて、ご飯に誘ってくれたりしてくれたから
結構仲良くできたんだけど男子は違うでしょ?」
「あー、まあ確かにどっかに遊びに行ったりはしねぇな」
「それもそうだな」
「あ、でもたまに集まったりはするぜ」
終止ニコニコしてるテンテンにやや疑問が残るが一応答えてやる。
「へー、そうなんだ」
良かった良かったとなにやらうんうん頷いている。
「そんなに俺ら、仲悪くみえてんのかな?」
思わずボソっとネジに聞いてみる。
「いや多分そういうことじゃない」
ネジがややはにかんだ感じの表情をしたので驚いた。
「うん、安心したって事よ!」
ビシッと指差されてなんだか脳裏にいのを思い出した。
「私もう食べ終わったから、じゃあまたね。2人とも」
ご機嫌で帰ろうとするテンテンを呼び止める。
「どうしたの?」
「俺はテンテンだってちゃんと仲間だと思ってるぜ」
「え!?」
驚いて振り返ったところで手元の伝票をサッと奪い取る。
「じゃ、またな」
「うわ、話には聞いてたけどシカマルって…」
「?何だよ」
「ま、いいか。ここは素直に甘えとくわ、ありがとね」
今度こそ去ってゆくテンテンを見届けていると何か言いた気なネジと視線があわさった。
「お前まで何だよ」
「ちょっと意外というか、びっくりした」
そのまま黙々と食事を再開したので敢えて問いたださずにおいておく。
やや冷えた定食を暫く食べてから。
「…あのまま見送ったら俺がいのに殺される」
「……それは難儀だな」
別の疑問にだけ答えておく。

「久々にナルトんちにでも集まって鍋でもするか」
「そうだな。そういえばこの前ちょうどいい酒をもらったんだ。持っていこう」
「お、期待してるぜ上忍様」
からかうなよ、とネジが眉を寄せる。
「あいつらに酒の味わかるかどうかは疑問だがな」
「あー、確かに期待はできねーだろうなぁ」
というかまた収拾つかなくなって後始末面倒なんだろうなーとかうっすら過去の記憶を
思い出す。あ、そうだ。
「酒が入るならリーは呼ぶなよ」
「…仕方ないな」
いくら人様の家とはいえ、流石に部屋が壊れるのはマズイ。

「お、そろそろ時間やべぇかな」
ペースを上げて食べ始めるとネジが柔らかく笑った。
「今度ゆっくりと食事でもしよう、また連絡する」
「りょーかい」
珍しい誘いに軽く手をあげるとそれを合図にネジが音もなく席を立つ。
流石上忍でエリート。つか、コイツ時間とれんのかなとか余計な心配をしてみる。
そしてネジが勘定を払って出て行ってからふと、気付く。
「あ!」
アイツ俺の伝票持って行きやがった…
ネジもすっかり丸くなったもんだと何やら不思議な気分で去ってゆく背中を思い出し
こっそり笑った。