以前、ナルトにシカマルがどんな奴かを聞いた事がある。
確か大戦が始まるよりもっと前の頃。
少し考え込んだナルトに二人はさほど親しくなかったのかと思ったが、単にナルトはうまく言葉にできない
ようだった。
頭をひねらせてしばらく唸った後にぱっと笑って一言。
「いい奴だぜ」
至極簡潔な言葉だったが、その笑顔に信用している奴だということだけはわかった。
まあ結局シカマルの人となりはよくわからなかったが、その後木の葉の里と交流が増えてくるといつも
だらだらしてやる気がない男だとかその逆にキレ者だとか、そんな話が聞こえてきて、そのうち身近でも
時折名前を聞くようになり。
任務でやってきたシカマルが特に萎縮するでもなく、怯えるでもなく淡々と任務とその現状を報告し、俺
の目を正面から見てきた時にああ、この男は確かにナルトの友人だと理解した。



「我愛羅」
シカマルは意外と使い分けが出来る奴だった。
色々と。
呼び方一つにもそうだ。
まあ人目がないところや気が知れた者しかいない場では時折呼ばれることもあるが、およそ他人の目が
あるところでは名前で呼ばれることはなかったような気がする。
だからこうして自分を風影ではなく、名前で呼ぶ時は個人的な用件が多い。
「どうしたシカマル」
今や義兄となった男だが、義兄さんと呼んだことはない。
主に周囲と本人からの強い希望で。
俺としては別にどちらでもよかったのだが。
すっかりかのご尊父に似た雰囲気の男になったものだ。
そんな感慨に似た感情をこの男に持つことになるとは縁とは不思議なものだ。
「もしも…」
珍しく言いよどむシカマルに視線を向ける。
「もしもシカダイが、砂に行きたいと行った時にはよろしく頼む」
「そのような話が?」
「いいや」
サラリと答えられて若干拍子抜けする。
久々に立ち寄った奈良家の庭が見える部屋で、庭を眺めるでもなくぼんやりと視線を外にやっていたシカ
マルの黒い瞳がこちらを向いた。
「ただ、あいつはテマリの血も引く子だ。俺より術の素養もある。せっかくこんな時代に生まれたんだ。無
理に里や掟だけに縛られる必要はない。可能性をつぶしたくないっつーか、…あいつには自分の自由に
生きて欲しい。だからもしも、あいつがそう望んだのなら叶えてやりてえからさ」
「ふ、お前も人の親だな」
「ぬかせ」
だが気持ちもわからなくもない。
この男が過去に掟に縛れて後悔しているようには見えないが、だからといって単に自分の子供がかわい
いというだけではないようにみえる。少なくとも自分が知るシカマルとう男はそういった奴だから、何かしら
見据えた言葉なのだろう。
「まあシカダイならこちらも歓迎する。なんなら姉さん…いや、一家でうちに来てもらっても問題ない」
これはなかなかいい案のような気がする。
「やめてくれ、俺は一生木の葉に足を踏み入れられなくなる」
「そんなものか?」
「まだやりたいことは山積みだしな。後、あそこの女連中に殺される」
「前から思っていたが、お前は働き過ぎじゃないのか?それに別にうちの里に来てくれれば、木の葉に行
けずとも問題ない。苦情は言わせない」
「真顔で言うのはやめろ」
げっそりとしたシカマルの顔を見て、この案は仕方なく諦めた。
まあナルトは事務処理とか苦手だし、仕方ないのかもしれない。
「この前、テマリにも言ったんだけどよ」
話を変えるようにシカマルが目の前の茶を手にしてずずずと飲んだ。
テマリとシカダイは買い物に出かけたそうで今は留守だ。茶は先程俺も飲んだが、シカマル自ら入れた
らしいが茶葉が良い物だということを差し引いてもなかなかのものだった。
「今度、里帰りでもしたらどうかって。シカダイとうちの母親連れて」
「お前のご母堂をか?」
予想外の提案に少し驚いて聞き返す。
「ああ。あの人らの年代って他里については思うところはあると思うんだけどよ。逆にお互いを知るいい
機会になるんじゃねーかと思ってさ。テマリがうちに来て色々苦労してるのはあの人が一番知ってるしな。
元気な今のうちにってのもあるけど」
改めてシカマルの父親としてだけでなく、家長としての顔を見る。
幾度かしか逢ったことはないが、あの聡明なご尊父とよく似てきた。あの御仁のような豪快さはないが、
のんびりとした空気はいつしか他人までそのペースにのせられてしまう。
ナルトは友人としてだけでなく、いい参謀を持ったものだ。
「わかった。話があればすぐ受け入れられるよう、準備だけすすめておく」
そう言いながら近場のスケジュールを脳内で確認する。
「よろしく頼む」
家の前からシカダイとテマリの気配が近づいてきて、男二人の密談は終了した。
「悪いな、我愛羅。待たせたかな」
「我愛羅叔父さん、久しぶり」
買い物袋を下げた二人が玄関先を歩いてくる。
こうして日常の姿を見ると、すっかりここでの生活が馴染んでいるようだ。先程シカマルが苦労があったと
言っていたが、とてもそうは見えない。身内だからこそ、見せなかったのだろうが。テマリも水くさい。
「もう少し居られるんだろう?テマリとも話していくといい」
 立ち上がったシカマルに声をかける。
「まさか、今から仕事か?」
「ん?いいや、ナルトにも逢ってくだろ。鳥とばしとくわ」
「そうか、あいつも忙しいだろうから都合がついたらでいいと伝えておいてくれ」
「了解」
「なんだか二人、仲良くなった?」
シカダイのきょとんとした顔はやはりシカマルによく似ている。
不思議と察しがいいところも。
去り際にシカマルがシカダイの頭をなでてそのまま出て行った。
父親の後ろ姿を見ながらなでられた頭に触れて少しはにかんだ顔もやはりシカマルによく似ていた。
…いささかシカダイは父親似過ぎているような気がするのは気のせいということにしておこう。
この甥っ子からシカマルとテマリの似たところを探すのも面白いかもしれない。
「うむ、奥が深い」
「叔父さん?」
「どうした我愛羅?」 新しい茶を持ってきたテマリとシカダイの言葉が重なって思わず微笑んだ。
「何でも無いさ」
庭には美しい紅葉。砂では見れない光景。
いつもいつも、四季折々の風景をさりげなくよく見える席に通されている。
それを奈良家の者に言えばきっと、客間とはそういったものだと答えるのだろうが。
久々に穏やかな日差しそのままに暖かな気分になれたような気がした。