静かな夜。
小さな虫の音。
深い夜の気配。
瞼を閉じて眠りにつこうとして、横になったまま窓を見上げる。
いつもより明るい色。
なんとなく窓を開けて空を見上げる。
雲もなく瞬く星空につい窓枠から屋根へと上がった。
そのままゴロリと横になる。
外の明るさの原因であるモノを確認しようと首を巡らせようとして。
「よ、シカマル!」
月を背負って笑う同期。
「…なにしてんだナルト」
気配を感じなかったが、今ではそんなことを突っ込む気にならない。
そういう意味では既に遠く離れた存在。
そして。
(太陽だけじゃなく、月も似合うな。)
そんな事をぼんやりと思いながら口にした。
「俺ってば昨日まで任務で里にいなかったからさ。ちょっと寄ってみたってばよ」
「ああ?」
眉を寄せつつ、そいうえば綱手様がそんな事を言ってたのを思い出す。
「もしかして木の葉からちょっと離れた小さな里か?」
「うお、シカマル。何で知ってるんだってばよ!」
「いや綱手様が言ってたなぁって…」
「ふーん、流石シカマル!」
「はぁ?」
「いやだって、いくらばっちゃんでも普通の人に任務内容とか教えないだろ。だからなんか
スゲエなって」
ニシシと言葉のまま無邪気に笑う。
「あー、その任務にお前を押したのが俺だからな」
「ふえ?」
きょとん、と見開かれた目にこっちもつい笑う。
変わってない、こういうところは。いや、変わらないのか。
明るい太陽の下も、満月の月明かりも、ナルトを陰らすことは出来ない。
生きている、という事を体現したかのような人間。
しかし眩しさに目を焼かれる者もいるというが、そんな事は無いと思う。
コイツは自分が苦しんだ分、痛みを恐れずに手を差し伸べる奴だ。
…ちょっと馬鹿だけど。
「あ、シカマル。今、変な事考えたろ」
「まさか」
妙に勘も鋭い。

小さな、小さな里。
古い慣習に縛られて何かを見失いかけている。
そんなところにはいっそコイツみたいなヤツが波紋を投げかけるといい。
そう思ってナルトを推薦した。それを口にすれば綱手様も心当たりがあるのか暫く考えた
後、ひとつ頷いていたのでナルトがあたるであろうと予想はしていた。ただ、どちらかとい
うと問題は他の人選だったけれど。
だが、この様子なら無事に任務は完了したのだろう。
「で、お前は何か用事だったのか?」
ふと我に返って聞く。
「うーん、用事っていえば用事?」
「?」
ストンと脇に座り込んだナルト。胡坐をかいて空を見上げる。
「月を見てたらなんか思い出しちまったからさ」
「…ふーん」
「シカマル、1日遅れたけど誕生日おめでとう!」
思わず屋根からずり落ちそうになった。
「………」
「え?違ったってば?」
オロオロと慌てるナルトをみて納得する。
「…よく覚えてたな」
再びニシシと笑うナルト。いたずらが成功したような嬉しそうな顔。
「なんか月を見てたら急にシカマルの事思い出したんだってばよ」
「俺?」
「うん。本当は満月っていうよりは三日月とかのが近いんだけど、そんなイメージ?」
「へえ…」
まあ、あまり太陽とか明るいイメージをもたれないだろうと自己分析。
しかし月とか言われたのは初めてというか予想してなかったというか。それをナルトに言
われるとか余計に。
考えていた事が表情に出ていたのかむうと膨れるナルト。
「そんなに変だってばよ?」
「いや、変っていうよりは俺はそんな御大層なモンじゃねーよって気がしただけだ」
「そうかなあ」
子供の様に口を尖らせて。
「なんかシカマルってさ。基本的にああしとけとか、こうしといた方がいいとかは言うけど
命令みたいな上からじゃねーじゃん。だからなんてーの?えーと、先を示すってのかな。
昼間の太陽の影みたいにくっきりコッチっていかせるんじゃなくて、月の光みたいに迷っ
た時見上げたら…ヒントをくれるみたいなさ。導いてくれるってのかな。そんな感じ。なん
かちょっとカッコよすぎるかもしんねーけど」
「なんも出ねーぞ」
「ちぇ」
そう言って顔を見合わせて笑う。照れくさすぎて笑うしかない、多分お互いに。
「わざわざソレだけを言いにきたのか?」
むくりと起き上がってナルトを見る。
「…来ちゃ悪いってば?」
「…いいや」
素直に首を振る。
「ありがとな」
「うわー、素直なシカマルって気持ち悪い」
「うっせ、このロマンチストが!」
「ロマンチストいいじゃねーか!ふんだ、ふーんだ。シカマルのバカマル!」
いーっと歯を見せてぷりぷりした様子で去ってゆく後姿を呆れて見送る。
「子供かあいつは」
どうしようもなくなって怒ったフリして帰るとか。
…クソ恥ずかしいヤツだな。
顔が熱い。買被りもいいところだ。
俯きそうになって月を見上げる。
…俺は太陽にはなれない。それは昔から分かっていて、諦めもついていたけれどやはり
羨ましいと思うこともあって。
だけど太陽じゃなくてもいいと太陽が似合う奴が言う。
ならば俺は。
―あいつの行く先を照らす月に。
ああ、俺もアイツのこっぱずかしいロマンチストが伝染したに違いない。
立ち上がってひとつ、溜息をついて。
「さて、寝るか」
満月だけが微笑ましく夜の世界を照らしていた。