「僕ね、今まで人よりすごく沢山後悔してきたと思ってたんだ」
いつも手にしていたお菓子の袋は今日はない。
「意気地なしで決断する勇気がなくていつも人の後ろで泣いてた。だからいつも後悔だらけでダメ
なんだって思ってた」
ひたすら後ろ向きなチョウジが心配になって思わず呼び止めた。
「チョウジ」
「ううん、大丈夫だよイノ」
ふふふって優しく笑ってチョウジは続ける。
「自分で、これからは戦うって決めた時に気づいたんだ。いつもシカマルが頭が良いからとかイノ
が勇気があるからだとか二人を信じてるって言い訳して、僕は後ろからついてくだけだった。父さ
んや周りの人に言われるがまま、とりあえずそれだけをこなしてきた。それが悪いなんてこれっぽ
ちも気づいてなかった」
そこで一旦言葉を切ったチョウジの少し俯いた横顔をじっと見つめる。
「よくシカマルがね、それこそ下忍だった頃からずっと『あの時もうちょっとこうしてたら良かった
のかな』とか、『この前のはああした方が良かった』とか色々言ってるのを当たり前に聞いてて、
僕はシカマルだって後悔するんだなって普通に聞き流してたんだ。
だからこうして中忍になって任務が終わった後に今までと変わらない調子で言ってるのを聞いても
何も不思議に思わなかったんだ」
このまま俯いてしまうかと思ったチョウジが顔を上げ、雲を見上げてキッパリ言う。
「シカマルはすっごい色々考えて、その中で一番大丈夫だって思ったモノをいつも選び出してた。
それでも、もっと良い方法があった筈だって後悔してる。けど、それは後悔だけじゃなくてこれか
ら先を考てるって事なんだよね。結果から効率や人の命の大事さをかみしめてる。
それだけじゃなくて自分の案や行動ひとつで人の命を危険にさらすって事を僕よりずっと前に気が
ついてた。…それなのに僕は自分の目線で同じ小さな言い訳じみた後悔だって思ってシカマルの
事、ちゃんと見てなかったんだ。親友なのにダメだね」
最後ちょっとへにゃりと弱気に笑ってチョウジがこちらを向いた。
「馬鹿ね。シカマルはそこまでアレじゃないわよ、大体チョウジはアイツに夢見過ぎ」
「イノは厳しいなあ」
のほほんと笑うチョウジをジロリと睨む。
「まあ、後ろ向き過ぎるけど色々気づけただけでも上等じゃない!」
バシリと気合を入れる意味も込めて少し強めに肩を叩く。
「も〜、イノ痛いよ」
肩をさすりながら笑うチョウジ。でもねってその手を止めてこちらを向いた。
「僕はイノの手にもずっと救われてきたんだよ。いつだってその小さな手でそっと背中を押してく
れた。いつまでたっても勇気の出せない僕に本当はイライラしててもおかしくないのに、僕の意思
を尊重して無理強いせずに待っていてくれた。ありがとう」
誰よりも優しいから誰よりも強くなれる。アスマ先生の言葉が今こうしてチョウジを導こうとして
いる。
「自分の事は自分が決めて、その決断に責任を持つ。当たり前だけどすごく大変で大切な事。
…これが自分の足で立つって事なんだね」
暮れ始めた夕日が眩しくて目を細める。
「今まで人に任せてばっかりだったけど、今度は僕が踏み出す番だ」
「そうね、チョウジはもっと自信持っていいわ」
「そうだぜ。それにチョウジはいつだって俺の考えがズレてた時にはちゃんと自分の意見を言う
じゃねーか。お前の言葉はいつも冷静でスゲー助かってんだぜ」
「あんた居たの」
「…今来たんだよ。だいたい呼んだのお前だろ」
相変わらずだるそうな冴えない風体で現れたシカマルを上から下まで眺める。
うん、やっぱりチョウジは夢見過ぎだと思う。
今ではすっかり見慣れた中忍ベストだってきっとお互い様だ。
「何だよ」
「別に」
髪をかきあげて、ふんと腕を組む。
「で、何の用で呼び出したんだよ」
「ハイこれ」
じゃじゃーんと取り出したのは焼き肉割引券とスイーツ半額券。
「どっちに行きたいか多数決取りまーす!」
「両方、両方!」
「それは却下」
チョウジの嬉しそうな声に思わず私とシカマルの声が即ハモる。
シカマルが眉間をぐりぐりやりながら溜息をつく。
「イノ、お前が持ってんだからお前が決めろ」
じゃないとめんどくせぇことになんだろって心の声がダダ漏れで仕方なく券を見つめる。
「じゃあもう夕方だし、一旦家に帰ってから夜いつもの店に集合ね!」
「おー」
「了解!」
「じゃあ後でな」
当たり前のように手を挙げて分かれる、いつものように。
もらった割引券を眺めた後、去ってゆく二人の背中をそっと見つめる。
強くなりたい。ありがとうの言葉を私も、もっと返せるように。
泣くことはいつだってできるから。
支えているつもりでつも支えられている。変わらないでくれてありがとう。強くあろうとしてくれて
ありがとう。
暖かな幸せをそっと胸にしまい暮れゆく夕日を背に家路を急いだ。