笑いは人の薬 

わらいはひとのくすり


「なあシカマルー」
「ああ?余裕じゃねーか、ナルト」
んじゃあと駒を動かそうとすれば。
「あー!それ、ちょっと待つってば!!!」
うむむとわかりやすく悩み始める。
やれやれと眺めるがどう見てもほぼ詰みなのでまあいいかと声をかける。
「で、何なんだ?」
「はぁ?!今話しかけるなってばよ!」
「最初に脱線したのはお前だろ。待ってやっから話せよ」
ぬるくなったお茶をずずずーと飲む。
「シカマルじじくさい…」
「うっせ。で、言わないのかよ」
「んー…なんつーかよく考えたら聞く程の事じゃないっていうか…」
ポリポリと鼻をかくナルトをチラリと見る。
聞くことねぇ。
まだ夕方前だというのに今日は何だか肌寒い。
「中入るか?」
いつのもように縁側で向かい合って将棋をうっているナルトに問いかける。
「なあ」
しかしナルトは俺の問いかけには答えず、盤を見つめたまま珍しく迷ったような声で。
「ん?」
「この前さ、木の葉丸に言われたんだけどよ」
ようやく顔を上げたけど、その目はまだ迷子のままで。
「……」
「シカマルに将棋習ってるって言ったらずりーって。んでさ…」
駒を持ったまま言い淀む。
ナルトは何故か小さく深呼吸して再び口を開いた。
「アスマ先生の、将棋盤を形見分けでもらったって言ってたってばよ。だから、シカマル…」
その様子にふっと笑う。
「何らしくなく気ィ使ってんだよ。馬鹿だな」
「バ、バカって何だよ!俺だってな…!!」
一瞬ムキーッと唸ったナルトだが後が続かない。
日頃人の細やかな心の機敏には疎いくせに、こういうところだけ人一倍敏感で。
それは俺にだけじゃなくて、他の知り合いだろうと他人だろうと目いっぱい心を砕くくせに、いざ
自分が痛む傷にはとてつもなく我慢強すぎるバカで。
「自来也様の事、話せよ」
「は?」
「お前はいっつもエロ仙人とかいってたけど、あの人はあれで伝説の三忍だった人だぜ。やっぱ
聞いてみたいじゃねーか」
母親が居ないので行儀悪く膝を立てて肘をつく。
俺の傷を通して自分の痛みもうっかりひっかいちまったんだろうけど。
案の定、視線を彷徨わせて。
「聞いてみたいったって、マジでただのエロ仙人だってばよ…」
言いながら言葉が尻すぼみになってゆく。
「それでもお前に師匠だって思わせた人だろ」
「…うん」
「…凄ぇ人、だったんだろうな」
あのカカシ先生でさえ本当に一目置いていた人、そして四代目火影の師でもあった人。
偶然とも運命ともいえる出会い。
「うん。スゲー女好きで馬鹿っぽくてのーてんきだけど悔しいくらいカッコ良かった。エロ仙人から
教わった事、言葉、俺は絶対忘れないってばよ」
「そうだな」
聞きながら、自分もあの大きな背中を思い出す。
「あん時も言ったけどさ、俺達もあんな大人になりてーって思われるような大人になりたいよな」
「うん」
ぎゅ、と胸を抑えるナルト。
それぞれに巡る想い出。
覚えてるから痛くて、それでもその想いが自分達を強くする。
決して名を汚さぬと誇りを持って心に誓って。
そしていつか胸を張って語れるように。
「ま、アスマも煙草臭いし、部屋は汚いし、いい加減だし、熊だし、どーしようもない大人だった
けどな」
「あー、カカシ先生もアレだもんなー。いーっつもイチャパラ片手だし、任務には遅刻ばっかで
まともに来た事ないし」
「何か俺等の師匠とか先生って忍びとしては優秀だったかも知んないが、人間としてはちょっと
残念つーか…」
「ああなりたくはないってばよ…」
「だな」
落ちこぼれ組の頃のようにニシシと笑うナルトにニヤリと笑って答える。
まだ青い彼岸花が見守るように静かに風に揺れていた。