風は吹けども山は動ぜず 

かぜはふけどもやまはどうぜず


チョウザさんと私以外のここに居た忍びが思った言葉。
子供の方かよってそのまま声に出してた人も多く居たけれど。
私は信じてた。
目前でピタリと止まった九尾化した力の切っ先。
それを見た時、私はあの時のいのの言葉を思い出した。

「いのちゃんは怖くないの?」
女子会と銘打ってたまに同期で集まって下らない話や近況などを語り合う。
その話が出た頃はまだ中忍試験を受ける前だった気がする。
そんな中でヒナタが突然言い出した言葉。
それまでサクラをからかっていたいのが不思議そうな顔をした。
「え、何の話?」
「あ、あの、えっといのちゃんの心転身の術って、体が無防備になっちゃうでしょ?」
「まあねー」
気楽そうにいのは笑ってるけど、確かに自分ならどうだろうと考える。
『心転身の術』
自分の精神を対象者にぶつけて、相手の体を乗っ取る術だっけ?
術の使用中は体はガラアキだし、体を乗っ取った相手へダメージがあれば確か術者に
反映されるんだよね?
「うわー、無理かも…」
あの冴えないイメージの10班男子に自分を任せるのかって考えてついポロリと本音が。
いのは姉御肌で頭も良くて、忍びとしてのセンスもあってちょっと羨ましいなとか思わない
でもないんだけど、いかんせん男子2人がいのとつり合ってない気がする。
それともいのだからこそ、何とかなってるのかな、幼馴染だし。
今考えればそんな失礼な事を思ってた。
ネジやリーだったらどうだろう。確かに不安要素はあるけれど、あの2人なら何があっても
きっと全力であたしを守ってくれるんじゃないかな。たとえ自分達が傷ついたって。
「そりゃ怖くないって言ったら嘘になるけど」
怒った風もなく、オレンジジュースを一口飲むいのはいつもどおりで。
「でも、私はあいつらを信じてるから」
当たり前のようにサラリと返す姿が逆に印象的だった。
本当に、信じてるって現れているようで。
「へえ〜、私だったらどうかな。…うーん確かにウチみたいな単純馬鹿がいるといののトコ
とはやりあいたくはないかも」
そういえば不思議とサクラが即否定しなかった気がする。いのに気を使ったんだとあの時
は思ってたけど、もしかしたら何か気付いていたのかもね。
「私は…どうかな」
真剣に悩むヒナタに、まあ皆の気持ちもわかるけどね、と肩を竦めるいの。
その姿を見つつ、自分の中で…というか多分いの以外のみんながどうしても払拭出来ない
10班のイメージ。
他の班に比べて地味でこれといって突出したものがなくて。幼馴染で組んでるから結束力
強いかな、くらいの認識。
「ま〜そうねぇ。チョウジは大きくなって転がるだけだし、シカマルは影で敵の動きを止める
だけって感じでしょ?」
おまけに気が弱いのとやる気無しの後ろ向きコンボだし。
その言葉にみんなサラリと図星をさされたと思う。

「でもね、任務を成功させる為にシカマルは考え付く限りの戦略を練るし、そのシカマルを
信じてホント全力でチョウジは戦っちゃうし、信じてくれたチョウジの為にもシカマルは影縛
りの術がとけたって全然退かないし、心転身に繋げる連携の為に私を信じてそれこそ命を
投げ出す覚悟で挑んでくれる2人の為に、後ろに居る私が恐いとか言ってらんないじゃない。
しかもあいつら馬鹿だから私の体が危なくなったら絶対体張って守ってくれるんだろうし」
淡々と、そんな事を語った。
当然のような言葉の裏に滲む経験が見えたような気がして再び静かにオレンジジュースを
飲むいのに誰も言葉はなかった。
そして。
「でもそれはみんな同じでしょ?」
その言葉がストンと心の中に入って、そして納得した。
さっき自分が置き換えた脳内シュミレーションの結果。
きっとみんなそれぞれ同じ事を思ったに違いない。
だから、やっぱり大丈夫かなって。
皆が心から信じてる同期を私は信じれる。それもきっと、皆同じ。

だから今はもっと。あれからお互い成長して分かり合って。
私も彼らを信じてる。
いのやサクラやヒナタが信じた同期じゃなくて「私が」彼らを信じてる。
これまで見てきた、一緒に頑張ってきた同期を。
こんな時でもマイペースで相変らずちょっと弱気そうなチョウジ、これだけの希望と失望の
視線をものともせず気負わないやる気なさそうなシカマル。そしてそんな2人の背中を押し
て発破をかける元気ないの。
いつも通りの3人で逆に安心する。
どんな作戦かわからないけれど絶対、成功させてくれる。
怖がってなんていられない。あそこで、あんな力を目の前に頑張ろうとしてる同期の為にも。
他の場所でそれぞれ頑張っている皆の為にも。
「うん、気合入ったかも」
崖の上から遠い彼らを見やって、私は私の出来る事をやる為に、知らず弱気になっていた
自分に喝を入れて再び大きく巻物を広げた。