昨日は今日の昔 

きのうはきょうのむかし


演説を聴きながら思う。

あの時、確かにナルトは我愛羅を救ってくれた。
チャクラを分けてくれただけではない、我愛羅の心を、救ってくれた。
一度は取り戻したと思っていたのに、いつの間にか踏み出せずにいたそれぞれの想いを。
感謝している。
それがなければ今あそこに立つことはなかった。
だが、時折思う。
けれどそれだけでは助からなかった。
あの禁術を知るチヨ婆様が居合わせたからこそ。
そして、あの婆様の心を揺り動かした奴らがいたからこそ。
運命などと陳腐な言葉にするのも嫌だが、これがめぐりあわせというやつなのだろうか。
同じ人柱力として理解されず、人から忌み嫌われた痛みを分かつ二人。


「そういえばサクラから聞いたんだけどよ」
ボソリと同じく崖の上に立つ面々を見上げる奴からこぼれた声。
「我愛羅って、己生転生で甦ったんだろ?」
忍びであればこそ、既にそんな感情など切り捨ててきた筈なのに、思い出すとチクリとまだ
苦い棘。
「ああそうだ。だからなんだ」
あの時、ひとつの命を救う為にひとつの命が消えた。
本来なら命に大小、貴賎もなくすべての者に公平に分け与えられる死というものの定義。
それを風影だからといって特別に覆るものではないとはわかってはいるし、それについて
里でもハッキリ何か言われた事はないが、少なくとも大切誰かを亡くした者にとっては何
かしら思うところがあってもおかしくないだろうとは考えている。
そういえばこいつも三代目の息子とかいう師を亡くしたと聞いた。
「何か文句でもあるのか」
思わず不機嫌になって再び問う。
お前の師匠は救われなかったかもしれないが、だが私の父だって救われなかった。
そんな事で文句を言うなら、キリのないことだ。
「そうじゃねえよ」
そう尖るなよと苦笑されてつい拳を握る。
「やっぱあの術って完璧なのか?あれから何か体調に変化とか出たりしねぇの?」
思わぬことを言われて思わず取り出そうとした扇を取り落としそうになった。
「ちょ、こんなトコでそんなぶっそうな武器出してくんなよ」
顔をしかめて半歩身を引いた奴をポカンと見やる。
「…なんでそんな事を聞く」
なんとか絞りだした声で問う。
「いや、なんか最近死んだ奴甦らせる系の禁術がアホみたいに大安売り中じゃねーか。
だからなんか気になってちまってな。まあ同じ転生でも種類ちげーから関係ないとは思う
けどよ、変に影響とかあったりしたら大変じゃねーかってさ」
なんせ大将様だしよってぽりぽり鼻をかく奴を呆然と見る。
「あ、そういえば」
だから今度は何だ、と微妙に混乱した内心を表にださないよう極めて冷静を装う。
「……」
「昔、中忍試験の時に我愛羅に会ったんだよな」
「まあそりゃあ会うだろ」
「リーって奴の病室でさ、あん時は殺されるかと思ったぜ」
「ハア?!」
聞いてない。とりあえず我愛羅からは聞いてない気がする。
「変わっちまったもんだよなあ」
クククと思い出して笑う男を最早黙って睨みつけるしかない。
「…オイ」
文句のひとつでもなにかひねり出そうと声をかけようとして。
「ホント、変わったよ。我愛羅もアイツも」
我愛羅を見上げる穏やかな横顔に不覚にも口を閉ざした。

そうして救われた命で今はあそこに風影として立つ弟。
「演説でよ、友を、ナルトを守りたいつってくれた我愛羅にさ。この戦いが終わったらで
いーんだけどありがとうっていっといてくれ」
「…そんな事、自分で言え!」
「いくらなんでも風影様にそんな無駄話できねーだろ」
そんなの出来るのはあの馬鹿くらいだぜと低く笑う。
辛い過去を背負った二人を守りたいのは弟であれ友人であれきっと想いは同じで。
「お前からキチンと我愛羅に言え。その方が喜ぶ」
「…いや別に喜ばせる為じゃねーんですけど。つか今更そんな恥ずかしい話言えっか」
「ふん、相変らずの根性無しめ」
「アンタに比べりゃ誰だって根性無しだろうよ…」
「何か言ったか?!」
「イイエナンデモコザイマセン」
ああ、ようやく調子が戻って来た。
「あー、あとうちの未来の火影様らしき奴が色々無茶したり段取り壊したり、無礼を働い
たりするだろうから今のうちに風影様に誤っといてくれ」
「…とてつもなく想像できるな」
とういか情景が目に浮かびそうだ。
問題なのは我愛羅が迷惑を被るのを喜んでしまいそうなところだ。1回ナルトの奴を教育
した方がいいのかもしれないな。
そう考えたところでそういえばあの時のツレを思い出す。
「では私からも」
おや、と奴が珍しそうな顔をして此方を向いた。
「春野サクラに、ありがとうと伝えてくれ。」
カンクロウの毒から救ってくれ、チヨ婆様の心を溶かしたのはサクラだ。
あの後バタバタして結局ゆっくり礼もいえなかった。
「了解、承りましたぜ」
ニヤリと笑うその顔に以前の面影はない。
まったく木の葉の奴は変にひと癖もふた癖もある奴が多くて困る。
「さて、こっちもお仕事しますかね」
「当たり前だ!」
バシリと背中を強めに叩いて自陣の体勢を整える準備に入る。
まるで箱庭の中のように、ただ砂隠れの里だけで生きていた頃とは違う。
負けられない、自分の為にも、我愛羅の為にも、里の為にも。
そして、世界の為にも。