青葉は目の薬 

あおばはめのくすり


バサバサと書類を分類してゆく姿に声をかけようか迷う。
一応目を通してはいるようだが、その仕分けの速さに本当に見てるかどうか不安になる。
先程綱手様から渡された忍びのリストから手をつけているようではあるけれど。
声をかけると邪魔になるかも、でもぼんやりと突っ立っているのもどうかと思って結局声を
かける。
「あの、奈良君」
「……ああ、すんません」
少し、間があってからようやく顔を上げた彼は既に仕事モードに入っていた。
幾度かこうして綱手様に無体な仕事を押し付けられる姿を見てきたので、最近はようやく
彼のいつものポーズの中にもそれなり読み取れるものがあったり…なかったり。
とりあえず、今は時間がないせいかそれなりに雰囲気が硬いのはわかる。
「今新たにチェックした人の中にシズネさんが知ってるだけで構わないスから、以前カカシ
先生と任務をしたことがある人がいたら印をしておいて欲しいんです」
「?わかりました。それでそっちのは?」
別に裏返された方を指差す。
「そっちはもういいっす。あと少しでチェック終わるんですみませんが宜しくお願いします」
「理由を、聞いてもいいですか」
わざわざそんな事をするのはどうかなんて聞いてもいいのか迷いつつ、奈良君だし年下
だしまあいいかなと規制ゆるく声をかけてみる。
「あー、まあ念の為って奴です」
「は?」
鸚鵡返しに言ってしまって思わず自分の口を塞ぐ。
これが年配の忍びであれば間違いなく反感を買ったであろう。いくらなんでもちょっと気が
緩み過ぎてるなと反省。
しかしこっちの言葉など気にもしないで彼は言う。
「任務に応じた動きが出来るかってのも当然重要ですが、こんな任務ですからね。出来れ
ば事前にお互いの動きを知っていた方がやりやすいかと。そうじゃなくてもカカシ先生って
ちょっと特殊だし」
「特殊?」
「いや、これは俺のカンつーか…勝手な予想なんすけど…」
ポリポリと頭をかく姿はいつもの彼、というよりは齢相応の子供のようだ。
「あの人って基本仲間は見捨てないしそこそこ面倒見も良さそうですけど、本当に役に立た
ないような人には…なんつーか。その場は適当に誤魔化して、自分が無理してでも一人で
任務片付けちまいそうな気がして」
「…ははははは」
そういわれるとやりそうで怖いと思ってしまった。ごめんなさい、カカシ上忍。
「下手に器用にこなせる分、そういうトコやっかいですよね。実力もあるから余計に。まあ
ある意味、当たり前かもしれませんけどね」
足手纏いになるような人を今回の任務には連れてけませんし、とボソリ。
「そうですね」
普通に語りながらも手は止まらない。まるで別の回路でもあるのではないだろうか。
半ば感心してみていると、控えめな声が。
「あの、こんな事手伝わせちまって申し訳ないとは思うんですけど…」
「はひぃ!」
ぼんやりしてたのでついいつものクセが口からポロリと。
「…仕事、手伝ってもらってもいいんすよね?」
「…すみません、やらせていただきマス」
自分より年下の子を困らせてしまった。いやあ綱手様がここに居なくて良かった。
冷や汗をかきつつ、書類に目を通し始めた。

「はい、全部チェック終りました!私が知ってる情報は少ないかもしれないけど…」
ふー、やりきったと一息つく。これではまるでどっちが上司か分からない。
そこでさっき避けられたリストを何の気なしにめくる。
「あれ、この人最初の立案のメンバーに入ってた人ですよね?」
ふつうにはじかれてるけど、いいのかな。
「あ」
そして慌てて口を塞ぐ。
またやっちゃった…
今日はどうしてこう、ポロっと口出ししてしまうかな、私。
ややしょんぼりしつつ書類を避けると、珍しく奈良君が身じろぎした。
「あー、その辺りの人選はちょっと…」
途端に端切れが悪いのに驚く。
「え、え?」
「あー、まあアレっすよ…」
微妙に目を泳がしているのが気になる。
じっと凝視していると観念したように手をあげて、溜息を一つ。
「ちょっと情けないつーか、こんな判断基準じゃ本当はマズイとは思うんすけど…俺には
まだまだ人員の把握なんて出来ないので」
中忍になってからまだそんなにたってないからそれは当たり前だ。その為に自分が補佐に
ついてきてるんだし。
「昔アスマが言ってた話とか、先輩らから聞いた話とか、待機所で聞いた愚痴とか…まあ
そんなんも考慮に入れちまったんで」
「えええ?あ、でも考えようによってはそれって1番リアルな情報源なのか」
「いや、やっぱ他人の主観が入っちまうからなるべくそういうのナシでやりたいんすけど、
今回はそうも言ってらんないんで…」
一応信頼できそうな人の言葉だけチョイスしてるつもりなんですけどとボヤキつつ。
その人は経歴にあるスキルの割に使えなかったってアスマが言ってたし、そっちの人は前
にカカシ先生がいやー困った頭の硬い人だっつってでも目がマジ笑ってなかったし、こっち
の人はゲンマさんがあいつないわーって言ってた人と一致してる気がするし、とか。
「………」
うわあ、この子意外と最強の情報持ってるのでは!とこっそり思ってしまった。
そうじゃなくてもすっかり綱手様のお気に入りで、お陰でこの里のなかなか手堅い人物と
結構出会ってる気がする。上の方の人間とはまだ縁がないようだけど。
そういえば廊下ですれ違ったりする時、結構色んな人と挨拶してたような。今この子の近く
にいる上忍とか中忍の顔ぶれを思い出すだけで頭を抱えそうになる。
…これから間違いなく逃げれなくなるだろうな、うん。
無責任な応援だけど頑張れ、奈良君。
「あ、こっちのリストアップ済ます間にもうちょっと広域の詳細な地図あったら用意してもら
いたいんすけど」
「わかりました、ここにはないからちょっと取って来ますね」
ハイ、とりあえず仕事します。なんかホントごめんなさい。
幾度目かの申し訳なさとともに部屋を出た。

今は色々大変だけれど。
綱手様、やっぱり私、木の葉の里に戻ってきて良かったと思います。
今度久しぶりに昔のようにゆっくり二人でお酒でも飲みたいですね。
ナルト君や、サクラさんや、奈良君、そして木の葉丸君のような未来を託せる彼等の話でも
しながら。
まるでトントンを腕に抱いたように温かくなって、年甲斐いもなく駆け出した。