遊び駒は活用せよ 

あそびごまはかつようせよ


「お前は俺を怖がらないな」
つい、そんな言葉が口から出て自分でも驚く。
「は?」
こめかみを押していた奈良シカマルから気が抜けた返事が返ってきてやや毒気が抜かれ
る。
「いや、スマン忘れてくれ」
だだの火影からの伝令が何でこんな話になったかなと内心苦笑する。
「忍びが見た目で舐められるよりよっぽどいいと思いますけど」
「ん?まあそうだが…」
「俺なんてもう最悪っすよ」
何やら思い出したのか、情けない顔をして溜息をついてる姿をみると本当にそこら辺にいる
ガキとたいしてかわりのない奴だ。
人は見かけによらないって言うが、噂ならチラホラ聞いてはいるがまだコイツとは顔見知り
程度の俺としてはどっちかというとまだそんな噂話が信じきれないこともない。
「ハハハ、若いウチに苦労はしとけ!」
とりあえずありきたりな冗談でからかってみる。
「物すっげぇ他人事だと思ってるっしょ」
猛烈に恨めしそうな視線に思わず本気で笑う。
「まあその通りだしな」
「うわ、サラっと言い切った!」
ポンポン出る会話は噂通り、頭の回転はいいんだろうと思わせる。
しかしコイツのまとう空気がな。
自分でも思い当たったようだが、確かにコイツは見た目で舐められるタイプだと冷静に観察
する。
たった一人中忍試験に受かったものの、うずまきナルトや日向ネジのようなわかりやすい強
さではない。
だからこそ、でもあるのだろうが。
戦場で若くてヒョロっとしてるのが後方にいれば当然相手は穴だと攻めかかる。
そして噂のコイツの頭脳で痛めつけられるんだろうな、勿論言ってやる義理はないが。
言っても本気にとりそうもない性格のようだしな。
自己評価が低いのも問題だ。

「まあ確かに俺らアスマを最初に見た時、熊がいるってひきましたけど」
自分こそサラっと先程の俺より驚く事を言う。
「お前、俺とアスマを一緒にするか」
驚いた俺を見て逆に奈良が驚くというヘンな図になった。
「だって体格とか似てますよね?」
なんだその感想。
基本的にアスマと俺とでは種類というか、方向性が違うだろ。まあ故人を悪くは言いたくは
ないが確かにアイツも子供から怖がられる方ではあったが。
それなのにコイツからぶつぶつと風体というか、身長とか体格とかがちょっと似てるかなっ
て思ってたんすよねとかそんな言葉がのほほんと漏れてくるのに脱力する。
「…まあそりゃそうだか…いや、まあいい」
コイツへの感想がどんどん変な奴へと傾いているのを否めない。
そういやコイツの親父さんも雰囲気で誤魔化されがちだが充分強面だしな、耐性があるっ
てことにしておこう。
「んじゃ、めんどくせぇけど行ってきますよ…」
本来の用件の火影への呼び出しを思い出したのか、心底面倒そうに言う。
その口調を聞くと意外とやっかい事を引き受けさせられるタイプなのかもしれない。
どうりで面倒見のいい輩に可愛いがられる筈だ。
「ホラ、早く行かないとまた綱手姫のご機嫌を損ねるぞ、走れ!」
とりあえずはっぱをかけると、奈良はお手上げのポーズをとりつつ。
「へーい、じゃ、また」
やる気のない返事をしつつ俺に背を向けて歩き出す。
「無事にいじめられて帰ってきたら何か面白い技でも教えてやるよ」
「いや、ソコ違うっしょ」
律儀に振り向いて突っこんで来る。
「ハハハ」
つい声に出して笑いつつ俺も待機所に向かって歩き出す。
とりあえず軽く右手をあげて。
「ま、頑張れ?」
「だから何でソコ疑問系っすか!」
テンポのいいツッコミについ口の端が上がりつつ、背中の物言いた気な視線を無視して店
の暖簾をくぐる。
若い奴とこんな会話をしたのも久しぶりかもしれない。なかなかどうだ、ズ太くて面白い奴
かも知れないな。そんな事を思っていると横槍が入った。

「なーんか優しいじゃないですか、先輩」
コテツとイズモがニヤニヤしながらこっちを見ていた。外の会話を聞いていたのだろう。
「ふん、お前らこそ、結構ヤツに入れ込んでるらしいじゃないか」
面倒見のいい輩筆頭のクセによく言う。
「はあ、何すかそれ」
「まあよく任務はがぶりますけどね」
微妙に顔を見合わせる二人。
ふと、真顔になって。
「それに俺達はあの場に居合わせましたからね」
「……」
「ああ、そうか。お前達は…」
先程のアスマの話のくだりで思い出したのだろう。
やや視線を落としたコテツが口を開く。
「実際凄かったですからね、あの時の奈良は。正直相手が暁じゃなければって今でも思い
ますよ」
「俺ら暁に翻弄されまくってて、それなのにアイツだけはずっと諦めずに考えて救おうとし
てて。戦いながらあんな戦略練れるだけでもスゲーのに」
ちょっと自分が情けなくなりましたと肩を竦める。
「それにアスマさんとのあの連携が。俺だってアスマさんとは何度か一緒に任務したことは
ありますけど、とてもじゃないっすよあんな動き」
まさに太刀打ち出来ない。
そう低く呟くコテツに驚く。
「アスマを尊敬してたお前がそう言うか」
「まあ確かに攻撃力としては不足でしょうけど、それを補って余りあるんじゃないっすかね。
連携だけで言えば、アスマさんと仲の良さそうなカカシさんとだってああはいかないと思い
ますよ」
「あの二人は言葉もなく視線も合わせず、勝手に相手の行動読んでんですから」
賞賛する二人を思わず見比べる。
「そこまでガッツリ師匠と弟子って感じでもなかったよな?」
まあどこかの暑苦しい師弟コンビと一緒にする訳でもないが。
「んー、やっぱ奈良のあの思考力があってこそかもしれないけど、どうかな。性格つーか
相性ですかね、やっぱ?」
「それだけに、あんなの見せられたらホントにたまんないっすよ」
もしかしたら、最強のコンビになったかも知れなかった二人。
世界に「もしも」なんてないけれど。
思わず黙るコテイズコンビについ。
「こんな事を言っちゃあナンだが、まあ俺としては羨ましい死に様ではあったよ」
「……」
「イビキさん…」
「俺たちの忍びの任務では独りで、誰にも知られず自ら死を選ばなければならない場合
だって当然有り得る。だが、アスマは教え子やお前らに見取られて、里に帰ってこれた。
そりゃまっとうに歳とって死ぬのが一番だがな」
「うっわ、イビキ先輩のヨボヨボじーさん姿って想像つかね!」
「うるさいわ!」
べし、と頭をはたくと大袈裟に痛がるコテツに睨みをきかせる。
「まあ何にせよ、いくら師弟だからってあのやる気なくてのんびりしてんのまでソックリっ
てのもどうかと思うけどな」
「いや、あれ多分元々の性格っすよ…」
やや疲れたようなイズモに不審そうな視線を送る。
「まあ、そのうちわかりますって。アスマさんより絶対ハンパナイっすから」
「あー確かになー」
イズモに続きコテツまでやや遠くを見るような目をしている。
「ふーん、今度面白い技を教えてやるって言っちまったけどマズかったかな」
「えええ!」
「やめたげて!シカマルがシカマルじゃなくなっちまう!」
「さっきなんか疲れてたじゃねーか、お前ら」
「いやそうなんスけど、でもアレがなくなったらあいつじゃないような気がする!」
「どっちなんだよ、お前ら…」
何だか俺の中で奈良シカマルがどんどん不思議な奴と化してゆく。
「ちょっとシメ技教えるだけだよ、大袈裟な…」
すっかり過保護なお兄さんと化している二人を呆れた目で見送る。
まあこいつ等にとっちゃ初の後輩みたいなモンだから仕方ないのかもな。
「とりあえずお前らうるさい、散れ」
シッシと追い払ってようやく席につく。
今日は色んなモンが見れたなと思っておくか。
ただな。
とりあえずコテツとイズモは少し奈良シカマルの落ち着きっぷりを見習え。