柳に雪折れなし 

やなぎにゆきおれなし


「奈良シカマル」
待機所に足を踏み入れようとして、久々にフルネームで呼ばれて振り返る。
明らかに強面の、だが見覚えある姿。
しかしその姿に近くに居た中忍が思わず、といった感じで少し身を引いたのに気付かない
フリをする。
いくら相手が特上だからって、同じ忍にビビルるってなんだよとか思いつつ。
「あー、イビキ先輩。ども」
「おう。お前、火影様が呼んでたぞ」
「うっわ、めんどくせぇ」
そんな会話をしている俺らを微妙に遠巻きにして数人遠ざかるのがわかった。
なんだかな。
思わずしかめっ面になった俺の頭をイビキ先輩が軽く叩く。
「お前、もう少し火影様を立てろよ」
「あー、すんません」
火影に呼び出されて面倒だと確かに顔には出たけど、俺が顔を顰めた本当の理由は違うん
だけどとこっそり思いつつ、まあ言わないけどさとは内心。
イビキ先輩は謝った俺の顔をみて意地の悪そうな顔で笑う。
「まあ、間違いなく面倒な仕事だと思うけどな」
その言葉に思わず現実を思い出してげっそりする。
「勘弁してくださいよ…」
「ま、諦めろ」
腕を組んでニヤリと楽しまれてどうしろってんだ。
はー、と溜息をついてると不意に不思議なトーンの声が降ってきた。
「そういやお前は俺を怖がらないな」
「は?」
目をつぶってコメカミをぐりぐりしていた俺はイビキさんがどんな顔をしてその言葉を発
したのか分からなかった。
まあ、さっき近くにいた忍びの反応を思い出してなんとなく察する。
「いや、スマン。忘れてくれ」
その言葉に珍しいこともあるもんだと思うが、そんなことはおくびにも出さず言う。
「忍が見た目で舐められるよかよっぽどいいと思いますけど」
「ん?まあそうだが…」
「俺なんてもう最悪っすよ」
つい色々思い出して情けない顔になってしまった。
「ハハハ、若いウチに苦労はしとけ!」
「物すっげぇ他人事だと思ってるっしょ」
「まあその通りだしな」
「うわ、サラっと言い切った!」
ちくしょう、流石暗部拷問尋問部隊の隊長、イケズだ。
「まあ確かに俺らアスマを最初に見た時、熊がいるってひきましたけど」
「お前、俺とアスマを一緒にするか」
何故か絶句した感じのイビキ先輩に逆にこっちが驚く。
「だって体格とか似てますよね?」
よくわからないがとりあえず感想を言ってみる。風体というか、身長とか体格とかがなんか
似てるなって思ってたのは本当だし。そりゃイビキ先輩の方がデカイけど数センチだし。
「…まあそりゃそうだか…いや、まあいい」
微妙な顔をしたイビキ先輩がちょっと脱力したように言う。
俺何かヘンな事いったっけな。まあいっか。
「んじゃ、めんどくせぇけど行ってきますよ…」
先延ばしにしても仕方ないので火影室へ向って足を向けると。
「ホラ、早く行かないとまた綱手姫のご機嫌を損ねるぞ、走れ!」
追い撃ちをかけられてお手上げのポーズをとる。
「へーい、じゃ、また」
やる気のない返事をしつつ先輩に背を向けると。
「無事にいじめられて帰ってきたら何か面白い技教えてやるよ」
「いや、ソコ違うっしょ」
思わず振り向いて突っこんでしまった。いや、合ってるっちゃ合ってるけど何か違う。
大体俺にイビキさんのスキルが使いこなせると思えない。
「ハハハ」
イビキ先輩は笑いながら既にこちらに背を向けて歩き出していた。
右手を軽くあげて。
「ま、頑張れ?」
「だから何でソコ疑問系っすか!」
しまった、あの様子ならどんな任務内容か知ってるのかも知れない、聞けばよかった!
こちらの後悔をよそに機嫌良さそうに待機所に入っていく先輩の後姿を恨めしげに見送る。
なんだろう、すっごい嫌な予感がするんだよな…
「とりあえず行くしかないか」
いのに幸せが逃げるからやめなさいっていわれてんだけど、どうにも最近溜息が止まらないぜ。
気を取り直すように軽く肩をまわして。
「じゃいきますか」