得難きは時 会い難きは友
えがたきはとき あいがたきはとも
「ああもう、泣くなよなまったくー」
キバの嫌そうな声にイノの隣で慰めていたテンテンが反論する。
「ちょっと、そんな言い方ないでしょ」
「でもよー、もう決めちまったんだろ。今更さあ…」
「それはそうだけど…」
思わず口ごもるテンテンにキバはソレ見たことかといった顔。
シカマルの言葉にみんな一応はああ言ったけど、やっぱり心の中ではきっとわだかまりが
あってそれぞれに傷ついたりイラついたりして動揺しているんだろうけれど。
「じゃ、俺は行くぜ」
立ち去るキバの背中に思わず一言。
「キバ」
「…なんだよチョウジ」
文句あるのかよ、とでもいいたげな顔で振り返るキバ。
「別にイノはサスケの事だけで…」
「チョウジ!」
言いかけた僕を当のイノが遮る。
「チョウジ、いいの。私達も行こう」
涙目のまま、立ち上がったイノを見て少し複雑な気分になる。とりあえず気がすまないので
ボソリと一言。
「キバって結構わかってないよね」
だから彼女出来ないんだよとイノへと歩み寄りながら追い撃ちをかける。
「なんだよ!」
流石にカチンと来たのかキバが僕の腕を取ろうとするけど、予測した動きなので素早く振り
払う。ヒナタがちょっとオドオドして心配そうにしているのに、ゴメンネと心の中で謝って。
「あんまりボクら10班をバカにしないでよね」
それだけ言うとさっさとその場を去る。
ボクの怒っている理由の半分も理解していないだろう皆を残して。
「なんなんだよ…」
背後に聞こえたキバの当然の呟きに答える義理はないと思う。
だって、キバは…いや、みんなはまったくわかってない。
幼馴染だから、同じ班だったからといってイノの事を特別扱いしなかったシカマル。
イノがサスケの事をを未だ忘れてないのを知ってて、どんな気持ちで言ったのかとか。
きっとこうして心痛めて悲しむとわかってたのに。
そして初めてのあのシカマルの隊長任務で失敗した結果が、今こうして形となってあらわれ
てきっと辛くてまた自分を責めてるんじゃないだろうかとか。
そのサスケを救う事をずっと考えているナルトやサクラにとって裏切りともいえるこの決断を
伝えることにどんなに勇気がいるのかとか。
アスマ先生が目の前で死んで、人の死というものの痛みを否応なしに感じたのにそれでも
里の人間として、里長に従う忍びとして決断したその心を。
そして、それを察した上で悲しむイノの気持ちも。
「チョウジ、ありがとう」
大丈夫だからといつもと違って儚く笑うイノ。
いつも強気で強引だけど、本当はよく気が利く優しいただの女の子なんだっていうところを
見せないで頑張ってる。
暫く歩いてみんなの気配がなくなったところでちょうどいい廃材の上に座る。
はあ、とため息をついてイノが空を見上げた。
晴れた空が余計に気持ちを複雑にする。
子供のように足をぷらぷらとさせて視線を空に向けたままイノが呟いた。
「でもね、チョウジ。それだけじゃないの」
「うん?」
ボクの、キバに対する怒りもちゃんと汲み取ってくれていたと分かりちょっとホッとしたと同時
にその言葉に疑問をもって彼女を見やる。
それに気付いたイノがようやく視線を戻し、少し苦そうに笑う。
「だって、ムカつくじゃない。アスマ先生の敵討ちの時、結局カカシ先生に手伝ってもらって、
増援まで来てさ。自分なりに修行して役に立つつもりだったのに。それなのにシカマルはたっ
た一人で暁の一人を倒しちゃって私達まるで足手まといみたいだったじゃない」
ハア、とため息。
確かに、それは自分も考えた事がある。シカマルに言えば否定はするだろうけれど。
「あの時も自分がまだまだだなって思って、あれからそれなりに頑張ってたつもりだったのよ。
私だって」
ぶう、とすこしむくれるイノ。
「なのにアイツったらまた勝手に一人先にいっちゃうじゃない。ホントもう、ムカつく!」
ふん、と鼻を鳴らすいのは少し元気が出てきたようだ。
「アイツの事だからさ、本当はすーっごい一人でウダウダグズグズ悩んでようやく決めたに
違いないのよ!それだったら私達に相談くらいしてくれたっていいじゃないの!」
幼馴染で、同じ班で仲間なんだから。
「そうだね」
きっと、シカマルだってサスケが絡んでいなければ相談してくれていたかもしれない。
いつか、ひとり言のように言っていた言葉を思い出す。
『アイツだって置いていかれる辛さは知ってたはずなのにな』
兄に裏切られ置き去りにされたと思っていたサスケ。
そして黙って置いていかれたイノと最後に会って、やっぱり置いていかれたサクラ。
誰がより辛くて悲しいかなんて決められないけれど。
「私はね、いいの。サスケ君の事はさ、この際ナルトやサクラに任せてもいいかなって思っ
てたから。希望は捨てたくないけど、シカマルの言いたいことはわかってるつもり」
それにアイツが無闇矢鱈に人の死を求めるようなヤツじゃないのもわかってるし、と肩を
すくめる。
「だからせめて、もう少しアイツに頼られるくらいしっかりしなきゃねー!」
うーん、とのびを一つしてイノは立ち上がる。
「イノは、強いね」
イノはいつでも、ボクより先に立ち上がる。
そして今回も。
「馬鹿ね。私が強くいられるのはね、アンタ達がいてくれるからよ。だから…」
ちょっと言葉を区切って前を向いて。
「さ、いくわよチョウジ!」
「どこに?」
フフフ、とボクを振り返ったイノは悪戯を思いついた様に笑う。お揃いのピアスが日の光に
反射してキラキラ光る。
「どうせアイツ、辛気臭い顔して戻ってくるだろうから、指さして笑いに行くのよ!」
ビシリ、といつものように元気良く指令を飛ばす。
「うん、そうだね」
チームワークなら他の班には絶対負けない自信はある。
アスマ班としてきっと一生心に残るボクらの繋がりと誇りを胸に秘め。
楽しい時は一緒に笑い、誰かが悲しいときは一緒に泣き、そして再び笑い会えるように。
「いこう、イノ!」
僕らは走り出す。
いつもの、あの言葉を聞きに。