学びて然る後に足らざるを知る
まなびてしかるのちにたらざるをしる
ずっと気にはなっていた。
アスマの弔い合戦の時にカカシ先生が綱手様に助っ人に申し出てきてくれなかったら
…あのまま強引に連れ戻されていたかもしれない。
(押し切って行くつもりではあったけど、なんせ相手が綱手様だったからな…)
それに。
作戦も、失敗していたかもしれない。
間違いなくもっと苦戦はしていた…というより今思えば失敗してた確立の方が高い。
だからずっと気になってた。
お礼を言わなきゃとか。
いくら暁が有りえない強さを秘めていたとはいえ、結局はそれを予測できなかった自分
の判断の甘さで迷惑をかけて申し訳なかったとか。
先生だってアスマと仲良くて、いくら最後の教え子になったらって俺たちだけが弔い合戦
だとか勝手に粋がってたんじゃないのかとか。
あと、こんな事態も想定できてなかったのかと失望されたんじゃないのかとか。
余計な事まで何かもう色々。
考え出すと止らなくなって結局今更何も言い出せずにここまできて。
日頃は接点なくて、任務でも一緒になることなんかなくて、もういっそウヤムヤにし
ようかなんて考えていたのに。
ソレがどうして今。
…こんな事になってるんだろう。
ツケというには何だかおかしな状況だ。
「あの…」
思わず口を開こうとしたものの、まず何から言うべきか迷って途方に暮れる。
「任務中だったんじゃないんスか」
結局迷いに迷って発した言葉に爆笑された。
「イイネ、シカマルったら真面目〜!」
涙を流してヒーヒー腹をかかえて笑う元暗部の上忍。
若干気持ち悪いです。
「すみません帰っていいですか?」
「あー、いやゴメン。ウソウソ」
涙をぬぐいつつ逃がさな雰囲気バリバリでもう諦めの気分になってきた。
なんかこの人も上忍の能力ムダに使ってるタイプだよな、ほんとアスマと気が合う筈だ。
とりあえず現在の俺。
任務中なハズのカカシ先生と一緒に草原に寝転んで空を見ている。
どうしてカカシ先生の任務を知っているかというと、本当にたまたま報告書を火影室へ
届けた際、今日はカカシ先生が綱手様の部屋の見張り役だとうっかり聞いてしまった
からだ。
当然護衛は別にいるからいいんだろうけど、コレって本当はかなりマズイんじゃないだろうか。
確かに火影室からは遠くない、上忍つかカカシ先生レベルならすぐ戻れるくらい近い
場所ではあるけれど。
いや逆にソレが問題な気もする。
「なーんか色々考えてるデショ」
カカシ先生はこちらを見ず、ずっと空を眺めている。
「そりゃまあ、俺はもう任務終わったんでいいスけどカカシ先生はやっぱマズイんじゃ
ないですか?」
「んーそっちじゃなくてサ、別に何か言いたい事あったんじゃないの?」
心を覗かれたようでドキリとする。
「まあなーんとなくわかるけど、別にいいよ?」
シレっと言われても逆に困る。とりあえず起き上がって頭を下げる。
「あの時はありがとうございました」
カカシ先生は相変らず寝転んだままだ。
「君、ホント真面目だね。とてもアスマの教え子とは思えないな〜」
別にいいよの言葉通りか俺の言葉にはなにも触れずにチラっとこちらを見た後、はい
はい、ココ、ココと自分の隣をポンポンと叩くので結局再び草原に寝転ぶハメになった。
「しっかしさー」
暫く無言で空を眺めていたカカシ先生が突然呟いた。
「よく君とアスマがこうやって空眺めてたじゃない?実はものすーっごい意外だったんだよね。だって、あの熊がだよ!間違いなく似合わないわーってね」
そういわれても一緒に居た立場としては反応に困る。
しかも現在発言した人が同じ状況にいるんですけど。
「アスマの場合は風流とかじゃなくてただ単にぼーっとしてたんだろうけどさ」
それでもやっぱ似合わないわーって呟いてる横顔をそっと眺めてみたけど、やっぱり
マスクのせいもあってさっぱり読めなかった。
「そんなにアスマ、荒れてました?」
「ん、まあね」のほほんと答えがかえって来た。
すると今度は横からクスクスと小さく笑いがもれてきた。
「やっぱ、ソコ気付いちゃうかー」
「?」
「いやだって、普通はさ。アスマの風体からそんな呑気な姿が似合わないとか思うでしょ。ま、一応ソレも考えたんだろうけど。でも更に昔アスマがスレてた頃から変わっ
たって俺が思ってる事、説明もなしにさらっと飛ばないでしょ」
「あー、そんなモンすかね」
「俺もよくわからいけど、多分そうだよ。だって普通に話してるのに面倒な時あるもん」
この人、いい歳して普通に『だって』とか『もん』とか使うよなってつい別な事を考えた。
「あ、今何か別な事考えたでしょ」
「イイエナニモ」
「ふーん」
何だか怖いんすけど、この人。うっかりすると何見抜かれるかわかんないなー。
ま、いいけどって聞こえてきてちょっとホッとした。
「なんかね、アスマとはまた違うんだけど。君と一緒にいるとある意味、少しラク
かもしれないね」
「俺ですか?」
「うん」
そういってカカシ先生は目を閉じた。
「ナルトなんかの場合は難しい話とか出来ないじゃない」
ここで言う難しいは多分話の内容とかじゃなくて。
「サクラも別に頭が悪いとか、察しが悪い訳じゃないから別に普通なんだけど。そう
いう意味では…サスケもかな。テンゾウは…頭硬いしなー」
確かに、皆普通に頭脳明晰といわれている部類の面々だ。
「ホント時々何だけどなーんか違うって思う事があるんだよね。よくわからない瞬間に、
フッと疲れちゃうっていうかさー」
「……」
うわ、この人結構容赦ないな。
「でもシカマルだってあるでしょ?」
問われて詰まる。
「そりゃまあ…俺は中忍になってからの方がそういうの多いですけど」
なんとなく分かる。自分の性格もまた相まって余計に。
「確かに説明すんの面倒くさいスよね。こっちは答えがわかりきってるのに、途中の計算式の説明させられたりすんのって」
「あー、ソレソレ」
カカシ先生が指だけ動かして同意する。
今まで一緒に居た面々とかはその辺りはなんとなくわかってくれているのでそこまで
言われることはなかったけど、流石に中忍になってからはそうはいかなくなってきた。
「まあ俺はまだまだなんで、仕方ないとは思いますけど…」
「うっわ、ソコでいいコちゃんになっちゃうんだ?」
「いいコちゃんって…俺一番下っ端ですよ?無茶言わないで下さいよ」
なんだかもうげんなりしつつ答える。絶対こっちの状態知ってて、分かって言ってる。
「んー気が向いたら助けてあげるよ」
フフフと意味ありげな笑いが怖い。
「とりあえずアスマの真似して寝転がってみたけど、俺の性には合わないかもなー。
ま、たまにだったらいいかもね。…というところで」
むくりと起き上がったカカシ先生。
ヤバイ、逃げたい。脳内で危険信号が物凄い勢いで点滅している。
「一緒に火影様に怒られてくれるかな?」
「はあ?アンタが勝手にサボったんじゃないっすか!」
思わず勢いでカカシ先生をアンタ呼ばわりしてしまったがそこは大目にみてもらいたい。
「だって君、俺が火影室警護の任務って知ってたでしょ」
でたよ、確信犯。
「ネ、同罪」もんのすっごい微笑みをくらわされたが。
「ネ、じゃねーよ!!知るか!」
アスマ、アンタの友達すっげタチ悪ィ!