月を指せば指を認む
つきをさせばゆびをみとむ
「で?」
「あーそうだなー」
思わず視線が合わせられなくて遠くを見る。
「…だからアスマ、結局何なんだよ?」
既に数回目の押し問答だ。
あー、見事に眉間に皺よってんなーとチラと横目でシカマルの様子を窺う。
こりゃそのうち痕に残るんじゃねーのとか思ったがまあ女の子な訳じゃないし、まあいっか。
ぶはーと煙を吐き出すと露骨に嫌そうな顔をした。
今度はシカマルに向いて吹こうとして
「アンタは子供か」
読まれてた。ちくしょう。
「かわいくねーなー」
「男が可愛くてどうすんだよ」
まあそれもどうだけどよー、とやっぱり遠くを見ながら思う。
「ホラ、あれだ。もちっと子供らしさとかさ」
「ハア?それって忍びに向かって言う言葉かよ」
ああいえばこう、とサクッと即答されて言いよどむ。
「あー、まあそうなんだけどよー」
「あんたソレさっきも言ったぜ」
あーうん。返答に困ってどん詰まり。
「何なんだよ、ホント。さっきから…」
ガリガリと頭をかく、いつのも姿をぼんやりと見やる。
こうなってくると今更なんだよなー、と現実逃避のように再び煙草を吸う。
ぷはー、うまい。
それを横で呆れたように見ていたシカマルが呟いた。
「ほんっとにめんどくせえー」
あーソレ出ちゃったかーと思わず苦笑いをする。
子供は、歳相応に笑ってくれた方が嬉しいんだけどな。
「?いやマジで訳わかんねーんだけど。頭でも打ったか?」
逆に心配されてしまった。
「うん、まあ、だからアレだ」
「?」
このままいくとダメ大人まっしぐらだと諦めて、ガシガシと箒頭を撫でる。
「誕生日おめでとさん」
「…は?」
心底きょとんとしたシカマル。それはいつものやる気さなとは違い、歳相応な表情で何だか
貴重なモノを見れた気もするが。
「そんなびっくりされてもこっちがびっくりするわ」
「…いや、びっくりするだろ普通」
ボソリと返したシカマルをこっそり見やると耳が赤い。それを見てようやく胸がスッキリした。
あー、この歳になるとこんな簡単な事を言うのが意外と…いやかなり恥ずかしいものだって
おじさん知らなかったわ。
思わずちょっと感慨深くなっていると隣からやや、低い声。
「言っとくけど、俺の誕生日…昨日」
「…は?」つい、さっきのシカマルと同じ反応をしてしまった。
「どーゆーことだ」
呆れたようなシカマルの顔に思わず聞く。
「今日いのに誕生日で、お前といのの誕生日会するからって言われたんだが。…何か違った
のか?」その答えにシカマルは俺に向かって非常に残念な人を見るっぽい哀れな顔をした。
いや、当然ソレはシカマルが俺に向かって、なんだが。
歳の離れた教え子にそんな可哀相なモノ見る目で見られる日がくるなんて…ちょっと辛い。
カカシって凄えなーと思わず現実逃避した。
「…あーソレな。確かにいのは、今日誕生日。んで、俺は昨日。1日違いだから毎年合同で
やることにしてんだよ。お祭好きなうちらの両親が」
台詞の後半、やや疲れた表情になったのは、きっと思い出しちゃったんだろうなーと思う。
成程、流石は幼馴染。そして目に浮かぶ。いのいちさんもシカクさんもきっとチョウザさん
も参加して猪鹿蝶が終結の後、騒ぐ…というか子供をダシにして間違いなく夜は宴会だな…恐ろしい。「あんたいっつもツメが甘いんだよ」
あー、ここで現実をもってこないで。
アンタの将棋と一緒とさらにもうひと押しされる。容赦ねえ…
「ま、でも嬉しかったよ」
そういって踵を返すのが照れ隠しだとわかっているので思わずニヤける。
その背中にひとこと言おうとして…
「紅先生の時は間違えんなよ」
げほごほごほごほ…
思わずむせて煙草を取り落としそうになる。
ニヤリと悪ガキの顔でシカマルが振り向いていた。
「あと、誕生日って聞いたんなら…いの、プレゼントないと切れるぜ」
更なる追い撃ちにサーっと血が下がる音がした。だから二段構えはやめろっての。
じゃーな、と今度こそ振り返らず歩き出すシカマルを瞬身で捉えガシと捕獲する。
「いっつも思うけどあんた上忍の能力、ムダに使ってるよなー」
「うるさい、いいから買い物付き合え!」
選ぶの失敗したら後が怖ぇんだよ!と怯えるとあー、よくわかってんじゃんと笑うシカマル
に真顔で。「いやどっちかってーと、いのいちさんがな…」
「…そこかよ、このダメ熊が!」
ついに教え子に罵倒された。