使う者は使われる 

つかうものはつかわれる


まるで円陣でも組むようにしゃがみこんで何やら話しているのをぼんやり眺める。
ふいにその中から一人がすっくと立ち上がる。
「アスマ先生、今日任務早く終わりそう?」
無邪気ないのの声に、煙草をふかして半ば呆けていた意識が返ってくる。
「あ、センセー今サボってたでしょ」
ム、と鋭くツッコミいれてくる少女を苦笑いでかわす。
「それは今からのお前達次第だろーが。どうした、何かあるのか?」
「じゃあ、この後は任務ない?」
「ああ、今日はこれで終りだ」
頷いてやると嬉しそうににっこり笑う。そしておもむろに背後を振り返る。
「シカマル!最短時間で終わる計画立てなさい!」
ビシィ!っと音でもしそうに指差す姿に思わず将来を心配したくなるが、いのいちさんの
超過保護っぷりを思い返すに…まあ今更だよなと溜息をつく。
同い年の幼馴染の女子に上からガッツリ命令された方も既に諦めているようだ。
「めんどくせぇ」といつものようにボヤキ、その辺の棒切れで何やら地面に書いていた
ものを足でザザッと消す。
どうやら今からの任務の方針を組み立てて説明していたようだ。

「あー…」と思わず視線を空に向けたシカマルが首をを回してコキコキと音をさせている。
その間、二人は大人しく待つ。
意外な事に、あのせっかちないのでさえこんな時は黙って文句を言わない。
不思議な信頼関係だ。
「とりあえず、さっきと基本的な方針は変わんねーんだけどよ…」
そんな声と共に二人に視線を戻し、幼馴染二人の目をじっと見て今度は地面に何やらガリ
ガリ書きはじめる。
こんな時、ちゃんと目を見て確認するというのも面白い。
いざとなったら視線すら合わせず連携をみせるくせに。
そして大人しく頷くチョウジと、何やら小言を言っているいの。
いつの間にか出来上がっていた役割分担。
いつ見ても面白いなと思う。
与えられた情報で戦略を練るシカマル、それを理解し疑問点あれば確認するチョウジ、自分
の気付いた情報を重ね更に意見を述べるいの、最後にどれが合理的かつ確実かをシカマル
が見直して再構築、最終的に三人の総意で決定する。
今は下忍なので任務的にCランクやDランクしかやってないが、任務に対するこういった
姿勢は大人顔負けだ。下手をすれば中忍でもこれが出来ない奴らがいる。
大人は下らないプライドとか邪魔すんだよな、人の意見とか聞かねー奴とかも居るしなー、
誰かじゃないけどめんどくせぇったらありゃしねぇとか。
ちょっと思い出したくない過去を振り返ってしまい、思わずプッカ〜っと煙草の煙で輪っか
をつくってしまった。
それに気付いたいのが
「あー、センセーもう一回!」
この辺りはやはり子供、呑気なもんだと思いつつ
「お前らもう準備はいいのか?」
「バッチリよ!」
「大丈夫です」
「あー…いいんじゃね?」
「なんでお前だけ疑問系だよ…」
参謀の筈の人物の発言にいきなり脱力する。密かにコイツ頭良いって思っているが、いかん
せんこのやる気の無さがなあ。
俺もあまり人の事を言えた義理じゃあないが。
「とりあえずさっさと行ってこい。早く終わらせたいんだろ?」
はーいと三人三様の声のトーンで出発したのを見送る。

猪鹿蝶と呼ばれる彼らの親とは多少違うが、いいバランスだと思う。
幼馴染だ、という部分を差し引いても。
このままいけば、昇格して誰か他の人間と組んでもやっていけるだろう。
いや、逆に苦労するかも?
以前合同任務で一緒になったカカシがぼやいていたのを思い出す。

「うちの班ってさー、いざって時にはすっごい団結力あるんだけど日頃はねー…」
遠くからでも騒がしくケンカしているのが分かる。
「で、いつになったらお前らんトコは話し合いが出来るんだ?」
既に論点がズレた方向にいっているナルトとサスケにカカシが遠い目をした。
担当上忍が逃げてどうする。
「センセー、まだー?」
待ちくたびれて遂に地べたに座り込んでしまったウチの班を見て、カカシがボソリと言った。
「ちょっとアスマ。アスマんトコだって、アレ本当に話し合い終わってるの?」
既に寛ぎタイムと化している子らにむかってこっそり指を指すカカシ。
「あー、多分大丈夫だぜ。確かに今日のはちょっと早かったけどいつもあんな感じだし」
「うっそ、マジで?」
「お前んトコどんだけ協調性ないんだよ…」
「言わないでよ…」
がくりと力なくうな垂れたカカシの姿に少し同情していると、視界の端でシカマルがいのに
向かって頷いた。同時にチョウジがお菓子の袋を片付け始める。
「ちょっとー、アンタ達遊んでるなら私達先に行くからねーッ!」
すると弾かれたようにナルトとサスケがケンカを止め、サクラが何やら言った後で今度は
負けず嫌いなナルトが騒ぎ出す。
「待てー!抜け駆けするなんてナシだってばよ!」
元気よくこちらに向かって走り出した(それでもまだ『お前が下らない事言ってるからだ』
とか器用にナルトとサスケは喧嘩をしている)のを見てシカマルがうんざりした顔をした。
ポン、とチョウジが肩を叩くと仕方なさそうにシカマルが立ち上がる。
「さ、行くわよ! じゃアスマ先生、行ってきます!」
元気よく走り出したいのにシカマルが引きずられ、チョウジが後を追う。
「しゃーんなろ、いのに負けてたまるかぁぁぁ!行くわよナルト、サスケ君!」
何やら違う導火線に火が付いて、カカシ班も後を追う。
「……」
「………」
「ま、今日の任務は意外と早く終わるかもネ」
「そうだな…」
あの時はお前のトコの班員、手の平で転がされてるぞともいえず黙っていたが。

「勝てねーんだよなあ、将棋…」
こりゃちょっと本格的に色々やってみるかなーと思いつつ一応担当上忍として部下を見守
る為に重い腰を上げた。
するとそこへトテトテとチョウジが。
いや、チョウジの影分身か。
「アスマ先生、今日さシカマルの誕生日なの。で、明日はいのの誕生日」
「は?」
「シカマル、いっつも自分の誕生日忘れてるから毎年いのと合同でお祝いするんだ。だから
今日は早く帰ります」
影分身とはいえ、珍しくキビキビと喋るチョウジに思わずたじろぐ。
「そ、そうか」
「先生、自分が気付くまでシカマルにはナイショね」
「…わかった」
「ねえ、先生。ボクは、これからもずっと三人でお祝いできたらいいなって思う。勿論大人に
なったらずっとなんて無理なのかもしれないけど。でも続けていける限り一緒にやっていき
たいって思うのは変なのかな?」
「…いいや、変じゃないさ」
「本当?」
「ああ。俺も、お前達にはずっとそのままでいて欲しいと思うよ」
…そう、願うよ。
「ありがとう、アスマ先生!それじゃ!」
ぼふん、と特有の煙と共に影分身が消える。
「なんだかなー…」
そういえば最初の資料にプロフィール等一通り書いてあった筈だが、正直そこまで気にして
いなかった。
今までもずっと、そうして祝ってきたんだろうな。思わず頬がゆるむ。
自分の誕生日にはカケラも興味がないシカマル。それに怒る二人。そして翌日のいのの誕
生日を三人で祝う。
「想像がつきすぎて笑えるなー」
どんな大人になったとしても、あの三人なら多少形は変わるかしれないが続いていけるの
ではないかと期待する。
「期待ってのも可笑しいか」
思わず自嘲的になってしまった。自分がとうの昔に忘れ去った気持ち。
愛しい、とおもう心には色々な形があるものだ。
まさか、生徒に教えられるとはな。
とりあえず遅れた誕生日祝いをどんな形でしてやるか、遠くで生徒達の声を聞きつつ考えて
いたら。
「先生、煙草の灰気をつけて!ダメじゃないそんなトコ落としちゃ!」
「先生、さっきの依頼書に誤字あったの気付いてなかったでしょ」
あーそうですか、スミマセンネ。
やっぱり祝うのやめようかなと大人気なく思ったところに、ふわぁぁと欠伸をしつつシカマル
が歩いてきた。
「アスマ、さっき何かニヤニヤして気持ち悪い顔してた」
何気にお前が一番酷いよ、シカマル!