子を知ること父に若くは莫し 

こをしることちちにしくはなし


会議が終わり臨時の火影室に入ると思わず溜息をついた。
「お疲れのようですね」
「まあな」
会議中は背後に控えていた奈良シカクが綱手の前に立つ。
喰えない男だと思うが信用できるとは思っている。
根のまわし者やらご意見番やらと比べてなんてのは失礼な話なんだろうが。
正直確かに実績はあるが今まではっきりと目立った活躍をした訳ではない。
しかし大戦を経験し、九尾の襲撃にも生き残った実力者。
あのはたけカカシでさえ一目置くという。自分の代わりに火影候補にもなった男。
こんな事態になって頭角を現すのは血筋なのか。
「奈良シカク、お前に尋ねたいことがある」
「なんでしょう」
「今度の大戦に奈良シカマルを参謀として加えたいと思っている」
「はあ?」
思わず、といった気の抜けた返事が聞けたので心中してやったりだ。

「本気ですか」
「勿論。反対意見が余りに多ければ考え直す事になるだろうが、その前にお前の意見
が聞きたい」
「それは、どちらの意見を?」
やや逡巡した返事にニヤリと笑う。
「任せてよいか」
「…経験が圧倒的に足りませんので足を引っ張るのがオチですが、それでも使ってみ
たいとあらば止めはしません」
どちらの顔での発言かわからない返事だ。
「こんな大戦の経験などそうそうない。危険だが後進を育てるにはいい機会だ。
他にも何人か若いヤツに前線に出てもらう。もちろん旧家・名家の区別などせん」
ここでいう前線は最前線の意だ。
陣頭に立つ者のそばでなにかを見出し、そして生き残れるか。

「まあやや平和ボケしてる今の若い奴らに荷が重過ぎるかもしれませんが今はそんな
事言える状態ではありませんからな。その意見には賛成です」
「今シズネにその辺りのリストをつくらせている。何処の配置に組み込むか後で話し
合うつもりだ。お前も参加して欲しい」
「わかりました」
「ところで」
わざと一端切って相手の様子を見る。
「お前の意見はまだ聞いてなかったな」
「は?ああ、聞きたいんですか」
「まあな。正直興味がある」
思わずニヤニヤと顔が笑ってしまった。
多分先ほどの意見は上忍としての意見だと踏んだ。
ここは親としての意見を聞いてみたいもんだ。同じ猪鹿蝶の誰かみたいに親馬鹿発言
などしようもんなら当分それをネタにしてやる。
こっちの考えに気付いたのかややげんなりしつつシカクが口を開く。
その表情といい、そっくりだなと内心笑う。
「アイツも一応忍の端くれなんでたとえ死ぬようなことになっても里や火影様を恨んだ
りはしませんよ、俺はね」
「…お前も性格悪いな」
違う方向から飛んできたやり口に眉が寄る。
「まあ一般論です。里の長となったからにはその辺りの覚悟は出来てるとは思いますが。
どう考えても今度は犠牲なしに終わると思えませんからな」
本当に喰えない男だ。
「さっきの件ですが、うちのなんざまだまだガキなんで正直無理と思います。圧倒的に
経験が足りない。ちょっとくらい頭がまわるくらいじゃ逆に足手まといです」
「にべもないな」
「アイツにどこまでのスキルを求めるかによりますけどね。ま、普通ならそれなりには
役に立つとは思います。浅知恵なりになんとか立ち回るでしょう。綱手様こそ、なんで
うちの倅なんかにそんなに拘るんですか」
「女のカンだ」
「…綱手様の勘って外れるんじゃなかったでしたっけ?」
「煩いな、そこは突っ込まなくていい!」
「ナルトですか」
「…お前本当に嫌なヤツだな」
「綱手様はお忘れのようですが」
ふと、シカクが淡く笑う。
「本当うずまき家の血筋ってのはやっかいですな。うちの家はあのド天然一家に振り回
される運命なんですかね」
「そうか、お前は…」
「まあそういう事です。その辺りの心配はなさらなくて結構ですよ」
ふう、と思わず椅子の背に縋る。
ちょっとしたいたずら心からの話が思わぬ方向にそれてしまった。
だが思いの他収穫だった。この時代の生まれには九尾を無意味に敵視する者が多い。
とりあえず、今はあちら側でないとわかればそれだけでも僥倖だ。

しかし俺に将棋で勝てないような小僧が参謀ねえ。
思わず呟いたシカクの言葉に苦笑する。
「経験を積ませるのにいい人材ではあるよ、お前の息子は。良くも悪くも今の環境が余計
にそうさせる。なかなかいないぞ。奈良家は旧家でもあるし、山中・秋道の猪鹿蝶だけで
なく、あの暴走気味の犬塚の子やイマイチ掴みどころのない油目一族の息子、日向本家・
分家と繋がりがある。当然その一族からもさほど悪い目では見られまい。
しかもカカシや他の上忍・特上からも受けがいい。更に風影を筆頭に砂の3兄弟と面識が
ある。まさにお買い得じゃあないか」
「人の息子をバーゲンセールの物みたいに言わないで下さいよ」
やれやれと溜息をつく姿は本当にそっくりだ。日頃はその髪型以外は全く似ていないのに。
「…本来なら、後方で勉強させてやりたいところではある。だが暁のような常識外の連中を
目の当たりにしてどれだけの忍びが平静でいられるかわからん。まして戦った経験がある
かないかでは大違いだからな」
報告ではあの力を見ても冷静に分析し、戦術を考えたという。
現場で混乱するようでは戦術家としては役にたたない、まして今度の敵は何をやらかして
くるかわからない奴等だ。力の差に萎縮せず、臨機応変に対応できなければ本人どころか
隊が全滅しかねない。

「この際だから、戦闘になったら役に立たなさそうなヤツのリストも上げてくれ。この辺りは
流石に私も現場を見ていなから判断がし難い」
うわー容赦ないですな、と遠くを見る目でシカクが呟く。
「この際だから共犯者になってもらおうか」
挑戦的な目でみると器用に方眉だけ上げたシカクが視線を寄こす。
「共謀者を増やすのは?」
「あまり人数を増やすと足許を救われる。が、数人なら許す」
「御意」
つか、俺これじゃあ暗部みたいじゃないですか…と溜息をつく姿に思わずお前ら親子は
もう少し火影を敬えよと突っ込みかけてやめた。

頼むからシカマル、性格までオヤジそっくりに育ってくれるなよ。