世界は理不尽で残酷だ。
穏やかな日常に潜む闇、などと大げさなことを言わなくても。
いっそ悪意などと違って突然目の前に降りかかってくる厄災に近いかもしれない。
唐突に目にし、突き付けられる。
目立たず、地味に、人並みに生きてゆければ十分なのに。
逆らえない流れ、決めつけによる縛りなどを本当は窮屈に思いながらただやり過ごす。
今の世では人と違う事はおかしなことなのだ。それを不満に思いながらもおおっぴらに
抗う気概も持ち合わせていない。
少なくとも自分はそう思っている。
そんな後ろ向きな思考をつらつらと考え出したら止まらなくなる。
世における理不尽などは、随分と小さい頃からなんとなく理解していた。
それこそ忍びの世界に入る前、普通に生活していてもソレは感じ取れた。
大きくなるにつれ、頭で理解していた事を耳にしたり、実際に身近に感じるようになり。
それを自身が体験する。
今、この時のように。
目前に睨むようにこちらを窺う三つの目。
それとは別に四つの瞳。
選択を、迫られている。
差し出された、ソレについて。
「答えてもらおうか」
尋問でもするように鋭い視線を送られる。
同様に横に並ぶ視線も鋭い。
「…………」
「で、どっちなんだよ!」
相手の一人はこちらの沈黙に耐えかねたらしく声を荒げる。
ずい、と身を乗り出して聞かれるが返答などできない。
というか後の事を考えたら答えられる筈がない。
しかし詰問者達は返答がかえってくるのが当たり前だと思い込んで迫ってくる。
「シカマル、答えて」
「もちろん赤丸だよな!」
「何言ってるの。パックンに決まってるじゃない」
「……」
「ワシの肉球にかなうものなどないわ」
「ワン!」
「…………」
この人達、すっげえめんどくせぇんですけど。
「ホラみてよ、この肉球。触りたくなるデショ?」
「何言ってんですか、カカシさん。うちの赤丸の肉球のが弾力があって断然触り心地いい
ですって!」
「いいや、パックンだね」
延々と行われている子供の様なやりとりに正直かなり辟易している。
だが先刻うっかりいつもの口癖が出た時、それを聞きとがめられて二人と二匹に延々と犬の
素晴らしさと肉球について語られたという悲しい事件も起こっている。
しかもこんな時に限って誰も知り合いが通りかからない。
どいつもこいつも無駄に危機回避能力の高い奴らめ!
「すんません、もう帰っていいっすかね」
一応控えめに問うてみた。
が、さっきまで言い争いをしていた癖にこんな時だけ声を揃えてキッとこちらを振り返る。
「ダメ、答えて!!」
……ああ、本当に世の中は理不尽で残酷だ
うっかり巻き込まれたシカマル