小話3

「長閑な昼下がり、数人の子供達の声が聞こえてくる。
「よーし、忍者ごっこしようぜー」
「オッケー!」
「あー、俺ナルトさん役がいい!」
「えー、僕もやりたいなー」
「お前ズルイぞ」
「早いモノ勝ちだもんねー」
「何だよソレ〜」
「よっしゃ、多重影分身の術〜」
「んじゃらせんが〜ん!」
「はあ?だから俺がナルトさん役だって!」
「へへーん、早いもの勝ちって言ったじゃねーか」
「そーだよ、だいたい口調も間違ってるだろ」
「うるせーな!」

そんな騒ぎが下の方から聞こえてくる。
ちょっと目の奥がツンとなってきたのがバレないように空に目を向ける。
「良かったな」
何事もなかったように、隣で多分雲を見上げている同期がボソリと言うので余計に
泣きたくなった。


遠くに敵の気配を感じつつも、ひたすら走る。
ふと、イタチの言葉が脳裏をよぎる。
『“火影になった者”が皆から認められるんじゃない “皆から認められた者”が
火影になるんだ』
『・・・仲間を忘れるな』
『力をつけた今他人の存在を忘れ驕り “個”に執着すればいずれ…』
ぶん、と頭を振る。
「どうした、ナルト?」
「なんでもないってばよ、ビーのおっさん!」
無意識にそっと封印式がある辺りに手をやる。
あの時シカマルは知っててわざわざ誘ってくれたのか、それとも偶然だったのか。
…偶然って事はないんだろうな、シカマルの場合。
心の中でこっそり笑ってるつもりが口元でバレたようでおっさんに突っこまれるのを
ニヤリと笑ってかわす。

とても大事な事を言われた。
大切な、でも俺は単純だからつい忘れがちな事。
いつも心配かけているイルカ先生や仕方ないなと笑うカカシ先生。
そして。
ようやく少し分かったってばよ。
時々、心配そうに俺を見るばっちゃんやサクラちゃんが何をいわんとしてたのか。
そしてシカマルがあの屋上で、俺に気付かせてくれたことも。
自分の中に、知らないうちに頑なに閉じていたものが確かにあった。
でも。
大丈夫だ、俺はまだ忘れちゃいねえし、アイツのようにはならねぇってばよ!
その大事な言葉を伝えてくれた、イタチから託された想いも必ず。
今はまだそれは胸に秘めて。
よし、と気合を入れなおす。
まずは目先の問題から。
みんなを信じて今は全力で走るだけだ。

                                 ナルト


line

何か、コレといってあった訳じゃない。
たた、どういうわけか、無性に。
「………」
とても空を見上げる気になれなくて、ただ立ち尽くしていた。
いつの間にか夕暮れ。
昼間は温かかった気温は既に下がり始め、辺りは茜色に染まりつつある。
さわさわと、時折耳に風に揺れる木々の音が耳に届く。
(さむい)
思わず心の中でそう呟いて目を閉じた瞬間。
「何やってんだこんなトコで」
久し振りの、しかしよく覚えのある気配がした。
「……」
答える術がない様にただ、黙って立ち尽くす。
風なんかなくても漂ってくる煙草の香り。
そのまま、二人黙して並び立つ。
1本吸い終わったのか、隣の気配が胸元をごそごそとしはじめた。
携帯灰皿に吸殻を入れて、その流れで。
わし、と頭を撫でられた。
そのまま無造作にくしゃくしゃと撫でられるのに、その手つきは酷く優しい。
大きな、無骨な手。
きっとその手で沢山の命を絶った事のある無慈悲な手が、今はとても。

「お前は雲見てるのが似合ってるよ」
ボソリとそれだけ言うと、ポンポンと頭を軽く叩かれる。
ずっと俯いていた俺は隣に向き直らずに、ようやく空を見上げる。
「日が、暮れちまった」
「あーそうだな」
「腹減った」
「なんか喰って帰るか?」
「あんたの奢りならな」
「給料日前だから、安いトコな」
「は?知らねーよ」
ようやくアスマに向き直って、言い放つ。
うまく、笑えただろうか。
「あんま、無理すんな」
今度は正面からポンと手を置かれて苦笑された。
「まあ、若いうちはいろいろ苦労せんとな」
「どっちなんだよ」
「ハハハ」
下らない話をしつつ、ようやく重い足を動かした。
「…アスマ、ありがとな」
小さな呟きをしっかり拾った前を歩く男は意地悪く笑う。
「まあ、いつかお前が出世したら、たかりまくってやるからよ」
「アホか。俺が出世とかする訳ないだろ」
いつの間にか冷え切った心より、立ち尽くして冷えた体のほうが気になっていた。
「とりあえず何か温かいモン喰おうぜ」
「おー、賛成」
薄暗くなり始めた夕暮れ、家路を急ぐ人達の流れに逆らって、俺たちは賑やかな
町並みの方へ歩き始める。


                                 シカマルとアスマ



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